ラグビー王国最高の美酒は?

 キーウイ(ニュージーランド人は自分たちのことをそう呼ぶ)はスポーツ好きな国民だ。観るのも好きだし、実際にプレーするのも好きだ。英国からの移民で発展した国なので、イギリス発祥のスポーツであるクリケット、ネットボール、フィールドホッケーなど、日本ではあまり馴染みのない競技が、市民レベルで人気がある。
 国技であるラグビー人気はダントツで、国代表チームの「オールブラックス」の選手、キャプテンのリッチー・マッコーやスター選手のダニエル・カーターなどは、国の英雄、セレブ扱いだ。
 ところで、全国に約五二〇あるラグビークラブ内には、お酒を販売できるライセンスを持つ「クラブルーム」と呼ばれるバーが併設されており、試合を終えた選手やサポーターが、ここで一杯ひっかける事ができる。他のスポーツクラブには、こういった施設はまずないだろう。
 設備は地域によって様々だが、壁にセピア色の歴代ラグビー選手の写真が並んでいる点が共通。中には、大画面TVスクリーンで試合観戦できる、充実した設備のクラブもある。
クラブ内の雰囲気はアットホームで、昔はチームの一線で活躍していただろう老年の元選手や、まだ小学校にも上がっていない少年まで年齢層は幅広い。もちろん、男性だけでなく奥さんやガールフレンドなどの女性陣も一緒だ。ラグビーの話だけでなく、世間話をしながら一杯飲む「社交の場」でもある。
 ビール、スピリッツ、ワインなど一般のバーとほぼ変わらない酒揃えだが、クラブで一番良く飲まれているのがビールだ。
 南島最大の都市クライストチャーチのラグビークラブで一番売れているビールは、南島南部のダニーデンで造られたラガービール「Speight's」だ。北島オークランドでは北島ビール「Lion Red」が人気がある。ニュージーランドでもやはり地元ビール、地元チームを贔屓にする。一リットルのジャグがNZ$10.50(約六四五円)、七五〇mlのボトルがNZ$9.50(約五八三円)が現在の相場の値段。
 一般的に、キーウイはツマミなしで、ビールをガンガン飲む人が多いが、ここではキッチンで揚げたてのホットチップス(日本で言うフライドポテト、トマトソースをかけて食べるのがNZ流)が、人気ナンバー1のおつまみだ。ひと試合終えたすきっ腹に、熱々のチップスを冷たいビールで流し込む。
 この国の飲酒年令、お酒を購入できるのは一八歳からで、もちろんラグビークラブでも一八歳以下の飲酒は禁止されている。飲酒が原因で暴行騒ぎを起こしたラグビー選手が過去に数名いたが、即刻クビか、もしくは一定期間の出場停止となるなど厳しく罰せられる。英雄扱いのスポーツマンに対する世間の目はキビシイのだ。
 昨年、NZでラグビーW杯が開催され、オールブラックスが二四年ぶり念願の優勝を果たしたときの祝杯に勝る美酒はないだろう。(いーでぃやすこ・クライストチャーチ在住)

月刊 酒文化2012年03月号掲載