キーウイBBQへの誘い

 新緑が眩しい初夏の訪れを感じる頃になると、NZのバーベキューシーズンの始まりだ。この国の温暖な気候がBBQに合っているからか? 大らかな国民性からか?この国のBBQ人気は今も昔も変わらず、BBQなしではNZの食文化を語ることはできないだろう。
 キーウイBBQの鉄則は「男が料理する」ことだ。「キーウイ・ハズバンド」という言葉があるように、キーウイ男性は掃除、洗濯、料理と家事を何でもこなす輩が多いが、BBQも同様、女性はワイン片手に、おしゃべりに花を咲かせ、BBQが焼き上がるのを待つだけ。もちろん、買い物やサラダ、デザートを作るのは女性の役目の場合が多いが、女性がビール片手にBBQを焼く姿はどうもサマにならないらしい。
 この国では、BBQに誘われることは日常茶飯事だが、その場合は自分が飲みたいお酒を持って行くのがエチケットだ。BBQの主役のお酒はやはりビールで、ケチケチせずに一ダースや二ダースの箱をド〜ンと持って行き、飲み残ったら(そういう場合は稀だが)BBQのホストに進呈する。
 国民一人あたりの年間ビール消費量は七五・五ℓ、酒消費量の六三%がビールという数値を見ても、BBQ文化が大いに貢献しているだろう。BBQを焼きながらビールを飲み、飲みかけのビールをジューッと肉にかけては焼き(肉が柔らかく焼き上がるので)、おしゃべりしながらビールを飲む。「BBQはビールで始まりビールで終わる」といっても過言ではないだろう。
 もちろん、NZワインもBBQの脇役にピッタリのお酒だ。招ばれて行くなら赤白一本ずつ持っていくと喜ばれるだろう。女性に人気のあるNZワインに炭酸を加えた「バブリー」は、夏やクリスマスシーズンに好まれて飲まれている。そのほか、男性ならバーボンやウイスキーをストレートまたはコーラで割るか、女性ならジンやウォッカをベースにしたカクテルが人気がある。
 BBQに招待されたときの失敗談で「Bring a Plate」と言われ、これを直訳すると「お皿を持って行く」なので人数分の皿が足りないのだろうと皿を持っていったら、なんと「料理一品を持ち寄ること」の意で皆に笑われた経験がある。サラダでもオツマミでも、デザートでも何でもいいから一品持って行くこと。キーウイBBQの常識だ。
 「テッパンヤキ」や「テリヤキチキン」がこの国の日常語として通じるようになったように、キーウイBBQのメニューも国際的なものに変わりつつある。一〇年ほど前までは、BBQと言えばソーセージとステーキが定番だったが、伝統的なヒツジ肉が鹿肉に変わったり、オリエンタルなソースが添えられたりと、グルメ路線を進んでいる。
 メニューや調理器具が変わっても変わらないことは、友人や家族と、リラックスしながら料理とお酒と会話を楽しむこと。それが「キーウイBBQ」の真髄である。(いーでぃやすこ・クライストチャーチ在住)

月刊 酒文化2012年06月号掲載