美味珍味な酒の肴

 伝統的に、キーウイは酒を飲むときに肴を必要としない国民性だった。お腹が空いていれば、飲みながら食べるけれど、「酒を飲む楽しみをそえる食べ物」という「酒の肴」の概念がなかったのではないだろうか?
 その傾向も、キーウイ女性や若者が飲酒を楽しむようになって変わりつつある。この国では、飲酒が認められるのは一八歳からだが、アルコール中毒を防ぐために、NZ政府が「お酒は食べ物と一緒に飲みましょう、ホストはおつまみを用意しましょう」という大々的なキャンペーンを行ったのは記憶に新しいところ。空っぽの胃袋では酔いが早く回るので、飲酒は食べ物と一緒に、というわけだ。
 しかしながら、若者が急性アルコール中毒で病院に運ばれる数を見ても、このキャンペーンの効果はあまりなかったようだが。
 というわけで、「酒の肴」を求めるグルメなキーウイが増えていることは、各地で行われるフードフェスティバルの人気を見ても肯ける。
 毎年五月、最南端の漁港町ブラフで行われる「ブラフ・オイスターフェスティバル」はそのひとつだ。
 このブラフで獲れるオイスターは、「ブラフ・オイスター」と呼ばれ、NZで獲れるカキの中でも、ブランド的ステイタスを確立している。シーズン解禁の日には、なんとヘリコプターで、オイスターは各地の有名レストランに運ばれるそうだ。
 太平洋で獲れるパシフィック・オイスターやロック・オイスターに比べると、形は丸みが強く、味はクリーミーで舌の上でとろけるようだ。生のままレモンやライムを絞って食べたり、パン粉をつけてカキフライにしたり、酢漬けにしたりと食べ方は様々。値段は年々上がる一方で、一ダース一二個で二五ドル(約一六〇〇円)が相場というところか。
フェスティバルでは、オイスターの早食い競争が行われたり、オイスター料理の実演や試食が行われる。ワインやビールも販売されており、グラス片手に色々なオイスター料理に舌鼓を打てるのが人気の秘密だ。
 南島西海岸ホキティカの街で行われる「ワイルドフード・フェスティバル」も若者を中心に人気のイベントだ。名前のとおりゲテモノ喰いのイベントなのだが、中には酒の肴にピッタリな新発見メニューにも出会える。メニューには、バッタとコオロギのサテーやカンガルー肉のバーガー、クロコダイルの一口揚げ、サメの天ぷらなど。ホワイトベイトと呼ばれる日本のシラスに似た小魚を、お好み焼きのように焼いた料理は、ビールと絶妙の組み合わせだ。
 忘れてはならないのは、酪農国である我が国の「チーズ」ある。スーパーに行くと、レンガの塊のような特大チーズが日常用に売られている。価格も一キロ一〇ドル(約六六〇円)ぐらいでお手頃だ。カマンベールやブリー、ブルーやスモークチーズ、ヤギのチーズなど、実に様々なチーズを堪能できる。NZワインの肴にぜひお試しあれ。(いーでぃやすこ・クライストチャーチ在住)

月刊 酒文化2012年09月号掲載