地球の裏側の人気ウォッカ

 「ニュージーランドでウォッカが造れるわけがない」という概念をくつがえして、この国唯一のプレミアム・ウォッカ「42Below」を生み出したシンデレラ・ボーイが、ジェフ・ロス氏だ。
 彼は、米国からの帰途のフライトの中で読んでいた雑誌の、北欧ウォッカの広告にヒントを得て、「北欧の美しい川や森林に匹敵する美しい自然がNZにあるのだから、ウォッカは造れるはず。米国でもウォッカを造っているのだから」と思いつき、さっそく北島のウエリントンの自宅のガレージでウォッカ造りを始めた。1999年のことである。そして、そのウォッカを、近隣のバーのオーナー仲間に売るようになった。これが、NZウォッカ「42Below」の誕生である。
 ワインやビール飲みのキーウイ(NZ人)にとって、ウォッカは当初馴染みの薄いアルコールだったらしい。しかし、お洒落なボトルやファッショナブルな宣伝が若い世代にウケて、国内での販売数は爆発的に上がり、ロス氏は本職の広告業を辞め、ウォッカ造りに専念するようになった。
 オーストラリア、英国、米国を中心に輸出も開始され、2006年には大手会社バカルディが1億380万ドルで「42Below」を合併して、ロス氏はウォッカで億万長者になる。
 「42Below」という名前は、南緯42度に位置するウエリントン北部の製造所と、他のウォッカに比べて42度と高いアルコール度数に因んで名付けられた。
 休火山の麓地下100フィート(330m)からくみ上げる深層水とGEフリーの小麦を原料に、3度の蒸溜後ピュアウォーターで洗浄し、4度目の蒸溜「高飽和率蒸溜」という独自の製法が特徴で、さらに35層のチャコールフィルターで不純物を除くことによって、ピュアで飲みやすいウォッカが造り出される。
 「ボトルに描かれているNZの地図や、この国ならではのフレーバーなど、南半球ニュージーランドのウォッカということをアピールしています」と、ロス氏。
 定番のプレーンの他、NZ原生植物マヌカから採れるハニーやキウイフルーツ、パッションフルーツ、フィジョア(パイナップルのような香りの果物)の個性的な5種類のフレーバーが選べる。
 毎年、南島のリゾート地クイーンズタウンで開催されている「42Belowsカクテル・ワールドカップ」は、彼が主催するユニークなイベントで、世界各国から42名の屈指のカクテル名人を招待し、バンジージャンプをしながらカクテルを作ったりと、ハチャメチャで大人気のイベントに成長している。
 自家醸造からミリオネラーも夢ではない、成功物語の象徴のNZウォッカ。私も自宅のガレージで日本酒でも造って億万長者を狙ってみるのもいいかもしれない、とひそかに企んでいる。
(いーでぃやすこ・クライストチャーチ在住)
2013年夏号掲載

月刊 酒文化2013年07月号掲載