初夏の“食とワインの祭典”へ

 日本とは季節が逆、南半球のこの国では、九月末から夏時間(デイライト・セイビング)が始まった。時計を一時間遅らせ、昼の明るい時間を節約しようというのが夏時間だ。四月上旬に夏時間が終わるまでは、夜の九時頃でも外は明るく、日本との時差は四時間から三時間に短縮される。夏時間が始まると、初夏の訪れ、アウトドアで飲む酒が楽しくなる季節の到来である。
 この季節には、食いしん坊、のんべえの市民には待ち遠しい毎年恒例のイベント『ワイン・フード・フェスティバル』が、全国各地で開催される。各都市はもちろん、ワインの名産地であるマールボロやセントラル・オタゴなどでも、大小様々なワインのお祭りが行われる。
 私の住む南島最大の都市クライストチャーチでは、一二月七日に『クライストチャーチ・南島、ワイン・フードフェスティバル』が開かれる。会場は街の中心に広がるハグレーパークで、ここは日比谷公園の一六倍の広さ、一八〇ヘクタールの緑あふれる美しい広大な公園だ。
 このイベントの何とも嬉しいところは、一つ屋根(屋外イベントなので屋根はないが)の下に、約四〇の南島ワイナリーと約三〇の食品・レストランのブースが勢揃いする点。入場料NZ$31.50(日本円で約二六二〇円)を払うと、フェスティバルロゴ入りのワイングラスが手渡される。このグラスを片手に、ワインの試飲へ出発だ。
 中には、名前を聞いたこともないような、小さなワイナリーもあって、ワインを飲みながら聞くワイン作りの話は興味が尽きない。気さくなNZ人は、話し始めると終わりがなく、チョビチョビ飲みながら数種類のワインを試飲していくと、早くも酔いが回ってくる。もちろんワインの試飲は無料、ワインの特別販売もあり、バーゲン価格でワインを手に入れることができるのも、嬉しい特典のひとつだ。
 一方、ワイナリーやワインメーカーにとっても、ローカルマーケットの拡大や宣伝に、これらのイベントは格好の場と言えるだろう。クライストチャーチだけでも、何千人もの市民や旅行者が来場する。例年、イベント前に前売りチケットが完売してしまうほどの人気ぶりだ。
 ワインだけでなく、チーズ、シーフード、チョコレート、スパイス、オリーブ、ベーコン、ソーセージ、羊肉、はちみつなど、挙げると限がない食品の試食も無料。数十年前までは、一肉三野菜の典型的なNZ料理に甘んじてきた国民だが、国民的グルメ志向は年々高まっている。
 試飲、試食の他に、エンターテイメントも充実しており、セレブシェフによる料理実演やワインセミナー、音楽ライブコンサートなどもお祭りを盛り上げてくれる。
 初夏の太陽と自然を楽しみながら、ほろ酔い気分で美味しい食事に舌鼓を打つ。音楽に合わせてダンスをする人もいれば、一緒に歌っている人もいる。まさにこの国の『食とワイン』のお祭りである。
(いーでぃやすこ・クライストチャーチ在住)
2013年特別号下掲載

月刊 酒文化2013年10月号掲載