立ち飲み  ごくり一杯 憩いの場

 欧米にはパブ文化とも呼べるほど、数多くの立ち飲みのパブがある。特に英国では都会だけではなく、田舎にも必ずパブがあり、教会と並んで周辺住民のコミュニティスペースとして機能していると言われる。
 これに比べると日本では立ち飲み店というものはあまり発達しなかった。戦後から高度経済成長期にかけては酒販店の一画で夜になるとサラリーマンが立ち飲み(九州では角打ちと呼ばれる)で一杯飲むという姿が見られたが、やがて多くは姿を消していった。理由は店内で飲ませることで買い物客に敬遠されたこと、店の人が酔客相手に夜遅くまで働くことを嫌がったからだとも言われる。
日本人は体力がないから長時間立ったままで酒を飲むことを好まないという説もまことしやかに流れた。確かに居酒屋など座って飲み食いできる店が増えていったことはその証しかもしれない。
しかしテーブルに座っての飲食では他の客と交流が生まれるということはほとんどない。特に最近流行している個室居酒屋などでは全く不可能と言ってもよい。
ところが、都会の一部では着実に立ち呑み酒屋が増えている。会社(東京神田)近くの小さな酒販店が店内の一角を改装して立ち呑みをはじめて6年。10人も入れば満員の小さな店だが、連日勤め帰りのサラリーマンと地元住民が集い、いつのまにか客同士のコミュニティが生まれた。
先日は江戸時代からの伝統的なお遊び「大山講」まで行われたほどだ。店名は関東大震災で消えた江戸時代からの由緒ある町名である「やまと」を名乗り、地元で生まれ育った“マコ姉さん”が店を仕切っている。ここに行けば必ず知り合いが飲んでいるので、話し相手にも事欠かない。コンクリートジャングルの中に咲いたこういう環境こそ「パブ」の面白さかもしれない。

2004年05月19日掲載