ジャパニーズウイスキー80年

 今年は寿屋(現在のサントリー)が日本で最初の本格的なウイスキー作りを志して山崎の地に蒸留所を建設してから80年という記念の年である。
 創業者の鳥井信次郎は、薬酒問屋で働きながら、酒のブレンド方法を身につけて独立する。今から考えると原酒の調達もままならない中で、調合によりそれらしい洋酒を製造していたわけだが、(当時の日本の洋酒はすべてそういう状態である)本格的なウイスキー造りを志し、山崎蒸留所の建設を決意する。しかし、ブレンドには長けていても、ウイスキー蒸留の実務はわからない。三井物産倫敦支店を通じて、スコットランドに技師の斡旋を頼むと日本から竹鶴政孝(後のニッカウヰスキー創業者)という青年が先年まで留学していたと紹介される。ちなみに竹鶴は、彼が奉職していた摂津酒造が一足先にウイスキー製造計画を立て、そこから派遣されていたのだが、帰国すると同社は業績が傾き計画が中止となっていたのである。
 彼を迎えて日本での本格ウイスキー造りが始まるが、最初から佳い物が生まれるはずもない。そもそもウイスキーは蒸留した原酒を何年も熟成してはじめて真価を得られるのだ。最初に発売したサントリー白札はほとんど売れなかったという。さらに数年間ひたすら熟成を進めていく。この間に鳥井は寿屋の儲けのほとんどを投入し、最後には儲け頭の歯磨きやビール工場も売却してようやく1937年に12年ものサントリー角瓶の発売にこぎつけるのである。
 ところでこの80周年を記念してかサントリーから稀少なシングルカスクウイスキー(樽の原酒をそのまま詰めた酒)が数種類11日からインターネットで発売される。中には数時間で売り切れるものもあるという人気商品である。一口飲んでみたいものである。

2003年11月12日掲載