製造年による味の違いも魅力

 ワインコレクターはビンテージチャートというものを持っている。例えば、ボルドーの赤ワインの場合には、一九八五年が天候に恵まれた良い年であるのに対して、前年の八四年は不作の年であるとか、同じ銘柄の同じワインでも収穫年によって評価の差が生まれる。同じように長期熟成をする酒であっても蒸留酒のウイスキーやブランデーには、熟成年数表示はあってもビンテージという概念は例外的にしか存在しない。新酒から一〜二年で飲むことが主流の日本酒でも、事情は一緒であった。
 最近は日本酒の世界でも古酒が脚光を浴びつつあるが、量も少なく製造年による違いを楽しむというマーケットはまだ成立していない。ワインのように年別の米の性格の違いがそれほどストレートに酒の味に影響を与えないということが最大の理由であろう。日本酒の製造過程はワインよりも複雑で藏人の技に預かるウエートが大きい。一つの藏で使う原材料の米の収穫地もさまざまであるし、秋から春という長い期間をかけて大吟醸から普通酒まで多様なタイプの酒を造るので、その年の酒の特徴を単純に言い表しにくい部分もある。
 そんな中で、石川県の菊姫がたぶん史上初であろう、日本酒のビンテージ別のきき酒と予約受注会を東京で開催した。ずらりと並ぶ醸造年別の大吟醸古酒を順に飲み進んでいくと、数年単位というスパンで味の傾向が少しずつ変わっていることが、私にも感じ取れた。新しい技法の採用、杜氏や製造スタッフの顔ぶれの交代、より理想的な酒造りを目指しての試行錯誤が毎年続けられているのであろう。ビンテージ別の試飲を行うと、そういう藏の方針がうっすらとながら伝わるのが大変面白かった。やはり日本酒は年々進化を遂げているのだ。

2003年07月05日掲載