ウイスキー−ブレンドこそが神髄

 ウイスキーは他の酒と明確に異なる部分がある。それは酒造りの焦点がわかりにくいということだ。例えば、日本酒やワイン・ビールであれば酒を作るといえば、原料を仕込む姿が容易に想像される。同様にウイスキーもコマーシャルの影響もあるからモルト造り、つまりポットスチルで蒸溜している姿を思い浮かべることだろう。
 しかしその行程は重要なキーであっても、まだ原料の仕込み段階に過ぎない。それが証拠に蒸溜したての無色透明なニューポットからは素人ではウイスキーの姿が全く想像できない。樽に詰められて何年も熟成され、多数のモルトやグレーンをブレンドすることでようやくあの味や香りのハーモニーが生まれるのだ。
 先日富士山麓にあるキリンディスティラリーという会社を見学した。同社は30年前にキリンビールと当時世界最大のウイスキーメーカーであったシーグラム社、そしてシーバスリーガルを生産しているスコッチの名門シーバスブラザーズ社の合弁企業として生まれた。その後、世界中でウイスキー資本の合従連衡が起こり、今年からキリンビールの単独出資の会社となった。そこでも理性的には蒸溜器を見るのも楽しいが、本能的にはウェアハウスで熟成中の樽を見るときに酒造りの現場であることを強く感じた。特に嗅覚に訴えるものが大きい。ウイスキーという酒が薫りの酒であり、その由来の大部分が熟成中に樽や大気との交流で生まれるということが実感できる。
 そして、ブレンドという魔法がかけられてようやく製品となる。これは1+1を2にするのではなくて、Aを生むという作業だ。光の三原色をまぜると白色光になるのと似ているかもしれない。ウイスキーは混ぜる酒、ブレンドこそが神髄なのだ。

2003年05月02日掲載