酒造り――水が工場立地の決め手

 安全志向の高まりから、水に対する関心はいやが上にも増している。ミネラルウォーターの販売量は毎年うなぎ登りで、中には1リットル当たりの価格がガソリンよりも高いものもあるのには驚いてしまう。国内の銘水ということでは、環境庁が「日本名水百選」を選定しているが、先日この中のひとつ、富山県黒部川扇状地の湧水地を訪れた。
 黒部川といえば、昨年末の紅白歌合戦で中島みゆきが酷寒の黒四ダムで「地上の星」を歌ったことを思い出す人もいるだろう。その黒部川が海に注ぎ込むところに名水の地「生地湧水群」がある。水は、川の表面を流れているだけではなく、地下深く潜って流れていて、この地下水が海に到達するときに浸透圧の差や、さまざまな圧力を受けて地表にわき出しているのだ。町のあちこちに井戸が設けられ誰でもそこから名水を汲み出すことができるようになっていて、遠方の料理店が車を使って汲みに来ることも多いらしい。
 酒造りの観点から見ると水は大変重要な原材料となっている。日本酒、焼酎、ウイスキーなどは特にそうだ。工場の立地場所はまずおいしい水の採れる場所になっている。ウイスキーでは、仕込みや割水に使う水をマザーウォーターと呼び、昔からこれを使って作る水割りが最もおいしい飲み方だとされている。日本酒も同様で、きき酒会に行くと仕込み水を飲ませてくれるところも増えてきた。
 さて、本題の酒であるが、自社内に湧水井戸を持つ「幻の瀧」という銘酒を造る皇国晴酒造を訪ねた。小さな藏であるが、アイデアマンの社長が酒造道具を自社用に工夫したものがいくつかあり興味深かった。特に豊富な水を生かした屋外水冷貯酒タンクなどはここでしか見られないものだと思う。

2003年04月04日掲載