伝統技法と現代技術の融合

 生元造りという言葉をご存じでしょうか。純米・本醸造・大吟醸などは、原料や精白歩合の違いなど定量的に把握できるものなので、誰にでもわかりやすいが、生元は酒造りの工程そのものを理解しないとわからないので、その価値の割に正しく理解されていないと思う。
 簡単に説明すると、酒造りの重要な工程である酒母の造り方の違いである。日本酒は世界に希な並行複発酵という過程を経て米をアルコールに変える。つまり、米(でんぷん)を麹菌を使って糖類にする工程と酵母の力で糖類をアルコール発酵させる工程を同時に行う。清酒酵母を培養して増やしたものを酒母と呼ぶが、酒母造りの初期の段階では、アルコール度数も低く糖分も高いために野生酵母などの雑菌も繁殖しやすい。これをおさえる働きをするのが乳酸であり、そのために乳酸菌を空気中から素早く取り込み育成させるのが、生元造りのポイントとなる。そのために酒母造りの最初に何回も攪い棒で米をすり下ろすつらい元摺りという作業があり、これを山卸しとよんでいた。
 明治末期に乳酸菌を添加すればほぼ同じ効果が得られるということに気がつき、速醸元という方式が開発されて醸造日数の短縮、作業の軽減が図られて、現在の酒造りの主流になっている。しかし、生元には生元ならではのよさがある。出来上がったお酒の中に乳酸やアミノ酸が含まれるので、ふくらみのある味わいの酒になるのだ。その違いは燗酒にするとより顕著に現れると思う。
 現在生元造りを主力にしている数少ない藏のひとつ酒田の初孫を先日訪れたが、元摺り用にハンドドリル様の工具を開発して省力化を図っていた。現代の技術で先人の英知を生かすうまいやり方だと関心している。

2003年01月24日掲載