酒事情――人気銘柄の価値とは

 ディスカウントストアやスーパーで、酒が値引き販売されるようになって久しい。いよいよ来年からは、キリン、アサヒ両社はビールの希望小売価格もなくす方向である。このように価格が下がる中で、逆に清酒や本格焼酎の中には不思議な存在がある。それはメーカーの希望小売価格の数倍、ときによっては10倍に近い価格で取引される銘柄が生まれたということだ。
 インターネットのオークションサイトを見ると、幻の酒と呼ばれる人気銘柄は毎月超高価格で落札されていく。単に造りや品質だけで比較すればそれと遜色ない商品が、いくらでも定価を下回って販売されることも多いのにである。
 もちろん世間には人気が高まり、当初の価格にプレミアムの付く商品はたくさんある。しかし、その多くはすでに終売であったり、限定販売品であったりする。一部のシャトーワインなどの場合には入札で価格が決まることもある。焼酎や清酒のように継続的に市場に投入される商品で、何年にも渡って定価の数倍でも購入されるという事例はまれであろう。
 消費者からみた理由は大きくはふたつ考えられる。ひとつは顕示的消費とでも呼べるもので、時代的価値があるものを飲むことが目的となっているのだ。この場合には、ただ単に美味しいということでは駄目で、「世間では入手困難」というお墨付きがあることも大切なエッセンスになる。
 もうひとつは、時間を買うという考え方だ。幻と言われる銘柄も時間と手間をかけて本気になって探せば、手頃な価格で購入することもできる。しかし飲みたいのは今この瞬間であり、探すことに自分の時間を費やしたくはないのである。
 しかしどちらの理由にしても単においしい酒が欲しいわけではない。そのブランドがまとう価値・ストーリーを体験したいからに他ならない。

2004年07月27日掲載