初呑み切り 乙な野外での日本酒

先月後半の週末に福島県二本松市の奥の松酒造の「初呑み切り」に参加した。「初呑み切り」とは、タンクの中に貯蔵されている前シーズンに醸造した酒の熟成度合を見る行事のことで、タンク(昔は桶)についている呑み口を切って、中の酒を調べることからついた名前である。
 正式に審査するのは、国税庁の鑑定官や醸造学者、主要な得意先など。同社は、数年前からお得意先や奥の松ファンを集めて披露している。林に囲まれた広い敷地にある蔵は、まるで山奥のキャンプ場のような雰囲気。そこで、社員総出でヤマメの塩焼きや焼き鳥、近所で採れた野菜、この日のためにだけ特別に作る大吟醸アイスクリームなどを振る舞い、酒を飲むというイベントだ。
 おいしい空気、おいしいお酒とおいしい食べ物、野外で昼間から飲む酒というと、普通はビールに軍配が上がるが、これだけのシチュエーションが揃うと、日本酒のおいしさを堪能することができた。
 日本酒の需要不振の原因として、生活の洋風化、さまざまな酒類の普及、二日酔いしやすいイメージなどいろいろ言われるが、決定的なのは日本酒のイメージが陳腐化して、生活の中で登場するシーンが減り続けていることにある。特に「おいしい!幸せ!」と感動させることがほとんどなくなっていることが致命的だ。
吟醸酒もはじめて飲んだころは、驚くほどおいしく感じられたが、今ではさほど感動しない。その一方で日本酒のおいしそうな場面と言えば、いつまでも、刺身、懐石料理などとの組み合わせの絵が浮かぶ。
自然に囲まれた野外バーベキューの場に日本酒をおいしく登場させる奥の松の試みは、日本酒の飲み方に一石を投じる試みだと言えよう。

2004年09月04日掲載