日本伝統酒類市場の曙

台湾人は日本人よりたくさんお酒を飲むかもしれないよ」。
陳世宗さんの弁である。陳世宗さんは私の友人で、早稲田大学の商学研究課程を修了、現在は台北でマスコミ関係企業の監査役を勤めている。
台湾では宴席の場でほんとうによく飲む。女性はあまり飲まないと思われているが、内輪の集まりでは男性顔負けの勢いで飲む人も多い。ただ、飲む場、飲み方が、日本とは大きく異なる。台湾では晩酌の習慣は無く、一人酒もしない。むしろ宴席で、同卓の人達と挨拶の口上を交わしながら一気飲みしていく。一人一人との、あるいは全員との乾杯が続き、あっという間に瓶が空になっていく。
高所得者層を中心に週末のホームパーティも多い。また旧正月前の忘年会にあたる「尾牙ウェイヤー」は無礼講的なノリで、いつにもまして大量の酒が消費される。私自身、尾牙に招かれ、三波にわたる乾杯ラッシュで五〇杯以上の盃(途中からコップ)を空にさせられた体験を持つ。
中華料理では、紹興酒や高梁酒を飲むことが多い。紹興酒は醸造酒で、米と麦麹でつくられる。政府系の台湾「台湾a酒股A有限公司(TTL)が生産しており、特に埔里産が美味しいとされる。度数は一五度前後。日本では温めて氷砂糖を入れるというイメージが強いが、台湾では檸檬や生姜のスライスを入れたオンザロックで飲むことも多い。高梁酒は高梁を含む複数の穀類を原料とする蒸留酒
で、金門島産が有名である。市場でよく売れているのは五五度前後のもの。常温のまま、ストレートで飲む。
ほかに、先住民に伝わる、粟などでつくる濁り酒がある。
しかしながら、中華料理の宴席では、ウイスキーやブランデー、ワインも多い。台湾ではほとんどの店が
お客による酒類の持ち込みを無料で認めている。「とりあえずビール」という習慣が無く、チェーサー抜きで最初からブランデーをショット・グラスで乾杯することも珍しくない。
日本の伝統酒類、地酒や焼酎、泡盛は、二〇〇二年のWTO加盟で酒類専売制が廃止されたことに伴い全面解禁された。それから二年、台湾は米国、香港と並ぶ有望市場として市場開拓が進められている。地酒や焼酎の需要は日本料理店が中心だが、台北、台中、台南、高雄等の主要デ
パート、ワイン・ショップでも扱われるようになった。最近は、泡盛にも動きが出てきている。
日本の伝統酒類が台湾の人の嗜好に適っていることは、多くのファンが生まれていることや、贈答として珍重されていることから、伺い知ることができる。二月に来台した山形県酒造組合のミッションも、試飲会を通じて強い手応えを掴んで帰られた。地酒の販売量はまだワインの一%未満にすぎないが、「飲み方、飲ませ方」を普及させれば、大きな潜在需要を顕在化できるだろう。
次号から五回にわたり、台湾における日本伝統酒類の事情を、地酒を中心にご紹介していきたい。

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*写真は、名門酒会の日本酒販売コーナー(微風広場:台北市復興北路)

(うさみよしあき:(財)交流協会台北事務所)

月刊 酒文化2004年04月号掲載