望まれる業界団体による組織的取り組み

台湾の地酒市場は市場拡大の可能性が高いとみているが、努力に欠けると小ぢんまりとした市場
で終わってしまうかもしれない。移り気な台湾の消費者の心を捉え続けるには、漫然と市場に任せず、定番化を図りつつ、季節限定の酒なども織り交ぜ、知的好奇心も刺激していかなければならない。
日本の真夏のような日射しが降り注ぐ四月以降、地酒を扱う一部の料飲店で異変が起き始めた。地酒の売れ行きは伸びているのに、有名ブランドの需要が低下しはじめた。消費者に飽きられたことが直接の要因ではないかと推測している。
日本の地酒ファンは、経験的に酒と肴の相性に気づいており、注文する料理に合わせて酒を選んだり酒に合わせて肴を選ぶが、台湾の人にはまだ理解されていない。ブランド信仰で飲むだけでは知的刺激が無く、何度か飲むうちに飽きられてしまう。
台湾では、小料理屋を経営している日本人でも地酒の特性や相性には不慣れで、輸入業者も知識に乏しい。
必然、初期の消費者教育は蔵元や業界団体が責を負わざるを得ない。
しかし、台湾の消費者に直接教えることは、相手が多すぎ効率が悪い。
海外各地における日本酒需要を調べた静岡県立大学の五嶋慎也氏は、在留邦人数と日本酒需要に相関関係は見られなかったとしているが、もし業界が在留邦人を積極的に活用していれば違った結論が出ただろう。
流通業者や地酒ファンの在留邦人を通じて台湾の消費者教育を進めることは、私の経験上、効率が良い手法と思う。特に、台湾は所得が高いため、日本人駐在員と台湾人は会食などを通じた日常的な交流機会があり、地酒を紹介するチャンスは多い。
さらに駐在員の帰国後は、日本国内での波及効果も期待できる。
六月一七日から二〇日にかけて開催されたFood Taipeiには、山形県酒造組合が出展、新潟も県の第三セクターの出展ブースに複数の蔵元が参加した。試飲したワインのインポーターが一様に強い関心を示すなどの手応えを得ていたが、業界団体や自治体関係でこうした動きが出てきたことは喜ばしく思う。さらに次のステップに向けた取組に期待する。
一八九五年、全国酒造組合連合会の前田正名・総監は、酒造業界の発展のためには団結とフランスのシャンパンに倣った輸出開拓努力が重要と説き、一八九六年には同連合会に海外輸出委員会が設置されていた。
前田氏はフランスの滞在経験をもち、農商務省次官や貴族院議員を歴任、茶や西洋野菜などの殖産振興でも功が多い。
任意団体であった同連合会は一九二七年に解散、これに代わり設立された日本醸造組合中央会には海外輸出委員会が設置されていない。
蔵元関係者の日本の酒の伝統や酒文化への自負には強いものを感じるだけに、権威ある業界団体により戦略的な海外展開の検討が積極化することに期待を寄せている。また海外での経験は、国内市場での販促対策でも大いに役立つと考えている。

thai0408.jpg
◆「フード・タイペイ」にて

(うさみよしあき:(財)交流協会台北事務所)

月刊 酒文化2004年08月号掲載