地酒の説明、わかりやすい手法の確立を

 台湾に住み、台湾のいろいろな人達とつきあってきた経験を踏まえると、地酒は台湾の気候・風土や台湾人の嗜好に合うと思う。地酒ばかりでなく、焼酎や泡盛も受け入れられる素地がある。ただし、過去の日本統治下の経験から日本の伝統酒が受け入れられると見ることは誤りだろう。日本統治時代に飲酒経験があった世代はすでに八〇歳を超えている。日本の伝統酒を紹介していくには、他国と同様、異なる文化圏とみなして初歩からわかりやすく紹介する必要がある。
 日本に留学したことがある人からは、貧乏な留学時代に品質の高い酒を飲む機会は乏しい、という話をよく聞く。蔵元が地元の大学の留学生を招く機会があれば喜ばれるだろう。
 一方、在日本の駐在員となると日本の伝統酒を知人やクライアントと一緒に味わう機会も多いようだ。蔵元や関係団体が台湾人の駐在員に地酒を紹介する機会を得ることはさほど難しくないと思う。大使館に相当する台北駐日経済文化代表處の関係者には地酒好きも多い。こうした人に協力を求めて呼びかけてもらえば、地酒に関心を持つ駐在員はかなり集まるだろう。
 むしろ、台湾でも日本国内でも異文化の人に地酒を紹介していく上での共通した課題は、初心者に地酒の魅力をどのように紹介するかというノウハウの確立だと思う。
 ワインは説明ノウハウが確立されており、X軸にぶどうの品種、Y軸に産地、Z軸に製造年を配して香りの違いや産地の歴史に触れれば、ほぼ基本的な理解を得ることができると思う。ここから先は食べ物との相性の説明となる。しかし、地酒はこうした三次元で説明することは難しいだろう。
 私見ながら、台湾の人に地酒を説明するのであれば、磨く前のコメと磨いた後のコメをサンプルとして準備しておくに越したことはない。コスト計算に長けている台湾の人は、磨いたコメを見ると高品質の地酒の価格が高い理由を即座に理解し納得してくれる。これは地酒の値頃感形成にも大いに役立つ。
 地酒は年間を通して生産しているわけではなく季節商品だとアピールすることも大事だと思う。いつ酒の仕込みを始めいつ頃出荷するのか、正月用などの特殊用途と飲み頃となる本来の新酒の出荷時期などについて説明することは、日本の四季に憧れる台湾の人達にとり地酒理解を解りやすくする。
 アルコール度数にも触れなければならない。原酒を説明し、その後、水で調整した市販用の酒の説明をすべきだろう。なぜ調整するのか、原酒とどう違うのかの説明も重要だ。
 ワインと異なり最も説明が難しいのはアルコール添加。どんな原料をどのように生成したアルコールを添加するのか、なぜ添加するかも含めて理詰めの説明が必要だ。ワインと異なる文化背景があることも押さえたい。
 こうした基本事情を理解してもらった上で味や香りの違いを楽しんでもらうと、地酒のファンは比較的容易に獲得できると思う。
(うさみよしあき:(財)交流協会台北事務所)

月刊 酒文化2004年10月号掲載