伝統のワインから遠ざかる若者たち

 ワインの大産地イタリアはワイン生産量も世界一だが、消費量、輸出量も世界のトップで(年によってフランスに負けることがある)、逆に自国への輸入量は非常に少ないのが特徴である。イタリアのワインはなんと80%が自国内で消費され、残りの20%が海外に輸出される。イタリアは、他のワイン生産国に比べると、自国消費の比率が非常に高い。それでも、昔と比べればワインの消費量が減少したと見られる。
 これの一つの原因として若者のライフスタイルが挙げられている。最近イタリア人の若者がビールや他のお酒を好み、これがワインの消費の減少に結びついているそうだ。昔と比べるとワイン以外にも様々な酒類が入手できるようになり、またライフスタイルも変化して様々な酒を飲むようになった。
 若者が上の世代の人間のように酒を飲まなくなったことも見逃せない。イタリアの中高年者はワインなしでは食事ができない人が多いが、若者はビールやコーラを飲んでしまう。若者の間で消費されているアルコールの調査によると、ビールとスーパー・アルコールが人気である。
 ワインが飲まれなくなっているのに対して、アルコール依存症が増えた。ヨーロッパ全体を見てみると若者のアルコール依存が顕著に見られる国は北欧諸国、イギリスやオランダなどで、イタリアは比較的にアルコール依存が低いのだが、昔と比べると増加しつつあるため、最近よく新聞やテレビなどで社会問題として取り上げられている。ワインはトラットリアやレストランで食事と一緒に摂取することが普通だったイタリアだが、最近アルコールが単独で摂取できるパブやバーが増え、それがアルコール依存の原因の一つと見られている。
 ワインを少量でほぼ毎日の食事と一緒に摂るイタリア人は、地中海の国と同様、小さい頃からワインには慣れ親しんでいる。イタリアでの飲酒可能な年齢ははっきりしていないと言ってよいほどあいまいで、小学校や中学校から少量ながらも家族でワインを飲むようになっている。
 イタリアン・ライフスタイルは色々と様変わりしているようで、北欧諸国からアルコールの違った文化が入り始めているといわれている。意識を失うまで飲んでしまう「Binge Drinking」などがイタリアにも定着しつつあるようだ。
 一方、北イタリアから始まって徐々に全イタリアにそのブームが広がっている「ハッピー・アワー」というシステムによって、夕方の食事に出かける前のいわゆるアペルティーヴを楽しむ時間帯に比較的安い値段で、アルコール飲料と軽いおつまみを食べることができる。これもまた若者には大人気。しかし、専門家によればこうしたやり方は若者のアルコール依存へ拍車をかけているということになるわけだ。イタリアの厚生省があらゆる対策を講ずる。
 若者のアルコールの過剰摂取が問題になっているイタリアなのだが、健康意識が高まり、2005年1月から禁煙法が施行され、喫煙場所が分かれている場所を除いて公共の場では全面禁煙が決まった。これまでもテレビコマーシャルや雑誌などでのタバコの宣伝が禁止されていたが、この法案によって、喫煙した場合、喫煙者およびそれを見て注意もしくは通報しなかった店主に罰金が課せられる。これをきっかけにタバコをやめた人は多いそうだ。これからも食、お酒、タバコなどに関する健康意識はますます高まりそうだ。
(シェイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2005年05月号掲載