ワインの秋

 食欲の秋、そしてワインの秋がやってきた。長い夏休みから帰ってきたイタリア人たちは、いまおいしいワインと食事を満喫する季節である。イタリア全国でワインや旬の食べ物が主役の地域祭りやイベントなど盛り沢山だ。
 五回目を迎えるワイン生産者およびワイン業界専門者のために開かれる「サローネ・デル・グスト」は一〇月二七日から三〇日の間トリノで開催される予定。今年からスローフード協会が主催している「サローネ・デル・グスト」が開催されない年に二年ごとに開催されることになった。今年トリノでの大きなイベントは、二九日に毎年一〇月に出版されるワインガイド「ヴィニ・ディタリア二〇〇六年」の発表、およびガンベロ・ロッソとスローフードが一緒に今年の素晴らしいワインに評価を下した「トレ・ビッキエーリ」の授賞式があり、三〇日に今年この賞に輝いた二四六本のワインの試飲が行われる見込み。
 なお、モヴィメント・ツリーズモ・デル・ヴィーノ(ワイン観光協会)がリードして、ワイン収穫時期である九月・一〇月に「ベンヴェヌータ・ヴェンデミア(収穫よ、ようこそ)」と呼ばれる、収穫をお祝いする催しがある。収穫の真最中であるワイナリーが、収穫の繁華な雰囲気をワイン好きな人に伝えるために一般のお客さんにもワイナリーを開放し、訪問客をもてなす。収穫の様子や進捗を観察しながら話し合い、今年の収穫のお願いやお祝いをしながら試飲はもちろん、ワインの造り方や食べ物との相性について、あらゆる過程を体験することができる。生産者とワイナリー内の設備を廻り、ブドウが収穫されてからボトルになるまでがわかると同時に、ブドウ畑でブドウを摘み、ワインを造る喜びを、皆と分かちあうのである。忙しい収穫の時期に時間を割いて、一般の人々と収穫を一緒にお祝いしようという催しが、最終的にワインを購入して、楽しむお客さんへの配慮でもある。
 今シーズンは、ここへきてイタリア全土で悪天候が続き、毎日天気予報を見ながらハラハラしている収穫に携わっている人たち。天気を感じながら収穫の方法も時間も全て臨機応変にやっている姿を目の当たりにすると、それを造り出す人々の苦労を感じさせられる。今、あなたの手元にある一本のワインも、その年だけが造り出せた貴重な一本なのである。
 一方、ワインの秋のカレンダーに待ちかねの日、一一月六日はイタリア・ヌーヴォーワインの解禁日である。この日開催される予定の「ノヴェッロ・イン・カンティーナ」という催しを楽しみする人も少なくない。今年の新酒のワインを直接生産の場所、ワイナリーで試飲できる貴重な機会である。季節の食品と合わせて試飲できるノヴェッロはフランスのヌーヴォーを同じく「出来立ての」という意味。フランスのヌーヴォーワインよりも解禁が早いのは、イタリアはフランスより南に位置しているため、ブドウの成熟が早いからと言われている。フランスでもっとも有名なヌーヴォーワイン「ボージョレー・ヌーヴォー」が単一品種、ガメイで造られるのに対し、イタリアのノヴェッロは、それぞれの地区の個性にこだわって様々な品種をブレンドして造られるので、ブランドによって味が全く異なり、飲み比べをするのには楽しいワインである。
 この秋は存分にワインとその収穫を楽しみたい。
(シェイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2005年12月号掲載