ヴィニタリーを後にして

 ヴィニタリー(Vinitaly:イタリアワイン国際見本市)発行の「Veronafiere」によると、〇八年は一五万人参加で新記録! 〇七年と比べ一五%も伸びたという。今年の特徴はこれまで見られなかった、中国や他のアジアの国々からの業者が多く参加していたことだ。またロシアや東欧からのバイヤーも多かったという。これからは「ヴィニタリー・ワールド・ツアー」の準備が再開され、六月に行われるロシアを皮切りに、アメリカ、日本、中国、インド、そして来年は初めてブラジルで開催される予定だ。
 最近イタリア国内で生産と販売が好調に伸びているのがアマローネである。海外ではブルネッロ・ディ・モンタルチーノやバローロの陰に隠れた感のあるヴェネト州の赤ワインで、ヴィニタリーではパネルや試飲会が開かれ、若い優良生産者のセミナー会などが開催された。
 アマローネはジュリエットとロミオの舞台でも有名なヴェローナ市とその周辺のヴァルポリチェッラ地区で、遅摘みしたぶどうを日陰干して糖分を高めて造られる。同じ地域生産のレチョートも同様に造られるが、アマローネは辛口でレチョートは甘口だ。一房ずつ丁寧に選りすぐったぶどうを風通しのよい場所で二ヶ月から五ヶ月まで自然乾燥させれば、ぶどうの実が凝縮し甘味や風味を濃縮することができる。このぶどうを発酵させその後大樽に移し、樽で最低二四ヶ月から三六ヶ月じっくりと熟成する(七年も熟成する生産者もいる)。アマローネはアルコール度が約一六度と高く、熟成すると複雑で味わいの深いワインとなる。
 高品質の保証とともにマーケティング力が優れたマージやベルターニのような大手、長い歴史を持つクインタレッリ、イノベーションで伝統を進化させたダル・フォルノ・ロマーノ、モダンなアマローネの生産に挑むサルトーリのような生産者が造るアマローネの中には目を見張るほど素晴らしいものもあり、これらのワインにはいつも驚愕させられる。
 私も最近増えたヴェローナ出張のおかげで、ヴェネト州最高峰の生産者が造るアマローネに関する知識を深める機会を得た。その中で特に忘れられないのは、ダル・フォルノ・ロマーノの最高峰の一九九六年のアマローネの見事なベルベッティの舌触りと奥深さ、そしてトロリと感じるほど濃厚な果実味と甘味の凝縮度によって強烈な印象を与えてくれた一九九九年のトマーゾ・ブッソラのアマローネである。
 ヴィンテージや生産者によってはベリー系やプラムの強い果実香、またはタバコやチョコレートのような香ばしさ、干しイチジクのようなドライフルーツのノートも続いて感じ取れる。厚くねっとりとした果実味が口いっぱいに広がる、心地よいタンニンと酸味のバランスで均衡の取れた、エレガントなワインが多い。
 特筆すべきはこのワインのパーソナリティーだ。アマローネは非常に個性的なワインであり、似たような味わいのワインを思い出すことができない。味わいの多面性、つまり口に含んでから余韻に至るまでの表情の変化は著しい。
 アマローネは大体リゾットアラマローネ(アマローネを使ったリゾット)、パスティサーダ・デ・カワル(馬肉の煮込み)、ブラザート・アラマローネ(牛肉のアマローネ煮込み)のようなヴェローナ代表的な料理と相性がすばらしい。サラミをつまみながら、またはチーズをかじりながら飲むのもおいしい。
(シェイラ・ラシッドギル コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2008年06月号掲載