∽∽∽--------------------------------∽∽∽

いろいろ高いオーストラリア

 世界で住みやすい都市ランキングで10位以内にもっとも多く入る国は? カナダ? 日本? イタリア? いやオーストラリアである。毎年のことだが今年もメルボルン、シドニー、アデレイド、パースと4都市が選ばれた。ちなみに日本はひとつも入らなかった。
 選ばれた都市はどこも生活インフラは整っており、道路にゴミなど落ちておらず、マンションのベランダが洗濯物で埋まることもない(なんと法律で禁じられている)。シドニー中心部のオフィスビルは深夜まで電気が消えない(美しく見せるという理由で政府から電気代の補助があるらしい)。
 ただ、住んでみると税金と物価は高い。都心のワンルームマンションの家賃は東京都心とほとんど変わらない。例外はワイン。オーストラリアでは過度な飲酒を規制するために酒税率を42%に引き上げたのだが、ワインは1本10ドル以下で買える。最近は為替レートがあがって日本円にすると約800円になるのだけれど、長く住んでいる者の生活実感としては500円くらいの感じだ。
 理由はオーストラリアワインが生産過多でだぶついているからだ。世界第4位のワイン輸出国ではあるが、南米や南アメリカなどにとどまらず、次々に登場する新興産地との競合は激しく、世界的な不景気でワインの消費が低迷しているため、輸出するはずのハイクオリティなワインが国内に流入している。高品質なのに値段を上げられないメーカーの悲しい現実。消費者としては、今はありがたいとは思うが、こんな状態が続いたら優良な生産者がワインづくりを続けられなくなってしまうかもしれない。そうなってしまうのは悲しいことだ。
 実はわが日本酒もそのあおりを受けている。輸送費、関税、酒税など、オーストラリアで売ろうとすると日本酒はどうしても高額になってしまう。リーファーコンテナで運んで42%の税金を乗せられると、720mlの平均的な純米酒でここでの小売価格は30〜40ドル、スタンダードなワインの3〜4倍、ちょっとした高級ワイン並みである。手を伸ばしてくれる人や機会は確実に増えているが、ワインとのコストパフォーマンスの違いは頭が痛い。
 また、残念なことだが東日本大震災の直後は風評被害で日本酒の消費が低迷した。最近になってようやく震災前に戻っただろうか。この間、日本食レストランはとても厳しかった。閉店を余儀なくされた店がたくさんあった。しかし、残ったレストランはすばらしい店ばかり。彼らと一緒に日本酒の魅力を伝えていくことが私の使命だと、強く思うこの頃である。
 最近、オーストラリアで日本酒を売っていいた中華系の食品卸がその扱いを縮小した。ただ商品を流すだけで情報提供も、飲食店の教育もしない店だったから、逆風が吹くとすぐに売れなくなってしまい止めてしまったのだ。いい商品をたくさん扱っていたから、とても残念なできごとだった。きちんと生産者の情報を伝えていれば、こんなことにはならなかったのにと、自戒を込めて思う。
 4回にわたってオーストラリアの日本酒事情を紹介してきたが、あらためて最初に高く掲げた志だけは忘れないようにしようと書き記して終わろう。ご愛読ありがとうございました。(いものひろし・シドニー在住:KONTATSU AUSTRALIA PTY.LTD)

月刊 酒文化2012年11月号掲載