本格化するか? オンタリオ州のSAKEビジネスPart1

 トロントは5月に入り、ようやく暖かくなり、庭のジャーマンアイリスや薔薇の蕾も膨らみ、短い夏の始まりです。前回はオンタリオ州のアルコール専売制について記述しましたので、今回は日本酒ビジネス最前線−Part1−についてお伝えします。
●本格化するか−−LCBO Vintages(専売公社)におけるSakeの店舗販売
 昨年5月、トロントで初めてLCBO Vintages主催のSake 101が開催され、ゲストに松崎晴雄氏、ジョンゴントナー氏を招き、セミナー&試飲会、walk around Tastingと大盛況の下、幕を閉じました。それを機に、LCBO VINTAGES  店舗販売部門は、長年、米国産Sakeと日本の一部酒造メーカーのみに許可してきた店舗販売の門扉を開き、様々な地酒を入札、輸入することになり、この1〜2年掛けて約100種類の酒を輸入販売することとなりました(2012年5月現在で73種類)。ただし、LCBO Vintagesは、この2年間でSakeの年間販売量のマーケティングを行い、Sake以上に売れ筋だと思われる他のアルコール飲料の商品があれば、店舗販売のSAKEの棚のスペースを縮小する可能性もあり、高騰する円相場もあってワインや他のアルコール飲料との価格差がネックとなっています。
●オンタリオ州のSAKE製造蔵(Ontario Spring Water Company)
 海外で日本酒の呼称は、Rice wine, Japanese wine, Nihonshuと様々な呼び方をされてきましたが、トロントでは“SAKE”に統一されつつあり、少しずつ定着し始めた感があります。そんな中で、2011年4月29日、オンタリオ州に酒蔵が誕生、その名もOntario Spring Water Company(http://ontariosake.com/)。ブランド名は“泉”(Izumi)、主に生酒と生貯蔵酒を中心に年間約80石製造(酒造りは10月〜6月)。仕込み水は、トロントから車で2時間程のMuskoka地方で湧き出る天然水、原料米はカリフォルニア産のもので70%精米です
 仕込み蔵はトロントの中心地にあるDistillery district 。この建物は、歴史建造物として登録されていて、1832年にジェームスウォーツと彼の義弟のウィリアムグッダムが設立し、かつてはオンタリオ州の蒸溜酒を大量に生産していました。今は、レストランやショップが集まる複合スペースになっている、雰囲気のある赤いレンガの建物です。酒蔵はこの一角にあります。オーナーであるカナディアンのKenさんは、皆さんに来て、酒蔵を見て、その場でSakeを楽しんでほしいということから、トロントの中心地にあるこの場所を選んだそうです。
 トロントは、日本の緯度でいう札幌あたりで寒冷地にあたり、内陸部の乾燥地帯のため空気が非常に澄んでいます。そのためか、“泉”のカナディアンの杜氏曰く、雑菌がほとんど発生しないので酒造りに最適な環境だと言っていました。“泉”の酒造りは、1年が経過したところですが、日本で造る日本酒ではなく、オンタリオのSAKE造りに真摯に向き合い、フルーティーで様々な料理に向く酒造りを目指してほしいと思います。
 この他、カナダには、British Colombia州にも酒蔵があります。Artisan Sake Maker (http://www.artisansakemaker.com/)とNipro Brewery Co., Ltd. (http://www.nipro.ca/)です。
 次回はオンタリオ州のSAKEビジネスパート2―居酒屋ビジネスと日本酒についてリポートします。
(みやしたきよこ・Kado Enterprise代表・http://www.kadoenterprise.com/:トロント在住)

月刊 酒文化2012年07月号掲載