オンタリオ州のSakeビジネス最前線―Part2―

●初めての日本酒フェスティバル開催
 今年2月、オンタリオ州で日本酒を取り扱っているディストリビューターとオンタリオ州で日本酒製造をしている業者が日本酒協会 SIO(The Sake Institute of Ontario)を設立し、5月31日(木)、トロントの歴史的建造物、distillery district において、 第1回 Kampai Toronto Festival of Sakeを開催しました。
 今回は、カナダで初めての日本酒だけのイベントで、これまでのワイン&フードショーなどに展示参加する時とは違い、日本酒取り扱い業者のみで総てを計画し、果たしてどのくらいのお客様がお見えになるのか、当初は見当もつきませんでしたが、チケットの予約も一週間前には売り切れ、カナダ人の日本酒研究家であり酒ソムリエのマイケル・トランプリー氏による酒セミナーは、割り増し料金にも関わらず、予定していた倍以上の130名の予約が入り、反響の大きさに驚きつつ、今後の活動に勢いがついたイベントになりました。
 当日は、山本栄二トロント総領事の流暢な英語でのスピーチの後、マイケル・トランブリー氏が、日本酒の種類、歴史、材料、グレード、酒スタイルなどの日本酒セミナーを行い、受講者の方々はグラスに注がれた大吟醸スパークリング、特別純米酒、純米吟醸酒、純米大吟醸酒、純米生原酒、吟醸にごり酒の6つの異なる日本酒をセミナーを聞きながら試飲し、味わった感想を熱心にメモに書き込んでいました。
 その後は、試飲会のお客様の入場が始まり、トロントの日本料理店、居酒屋、フュージョン料理店の料理を楽しみながら400名程のお客様が120種類の日本酒を堪能しました。日本やアメリカからの蔵元の参加も多数あり、多いに盛りあがりました。
 今回のイベントで特筆すべき点は、LCBO Vintages(日本酒の店舗販売部門を担当している)のワイン及び日本酒担当官、総勢10数名がセミナーに参加し、walk aroud tastingで一つ一つのブースを試飲して回る姿は、今までにない光景であり今後の日本酒普及に弾みがついたように思われた一日でした。
●トロントで勢いを増す居酒屋ビジネス
 つい3年前まで、ここトロントには居酒屋は一店舗もありませんでした。7年前にカナダの投資家が当時3ミリオン(3億5000万円)の改装費をかけてトロントの一等地に“IZAKAYA”という日本食レストランを開店しましたが、残念ながら3年で閉店になってしまいました。その頃のトロントの日本食レストランは、昔デパートの屋上にあった食堂のようなもので、お寿司、天ぷら、カツ丼、カレーも有り。それは、必ず小さなサラダから始まり、みそ汁が出て、そのあとカツ丼だったり、寿司だったりとコース料理のように日本食を食べるのが日本食レストランの定義でした。そんななか、“IZAKAYA”レストランは登場したのでしたが、居酒屋としてはあまりにファンシーで、その上、カジュアルに飲んでくつろぐ居酒屋という概念がトロントニアンに定着せず不発に終わってしまいました。
 一方、当時、バンクーバーでは居酒屋が大流行していました。その4年後にトロントに出店したのが、北の家Guu Izakayaです。この店はバンクーバーにおける「居酒屋」のパイオニアチェーンで、今ではバンクーバーに6店舗、トロントに2店舗、中国の四川に1店舗を展開しています。
 今日現在、トロントにはGuu, Guu sake bar, Fin Izakaya, Izakaya DonDonがあり、9月にはHapa IzakayaやNejibeiがオープン予定と目白押し。居酒屋は、西洋社会で云えばパブやバーといったところで、これまでのトロントの食を中心とする日本食レストランのイメージは、居酒屋の出現で飲み屋さんへと変化し、それがトロントの若者たちに受け入れられ、トレンドになりました。
 先日、ある居酒屋さんにアルコール飲料の売上は、全体の売上の何%ぐらいなのかを聞いたところ20%ほどということで、昨今の食料品全体の価格上昇もあり、アルコール飲料はまだまだのびしろがありそうです。
 カナダにおける日本酒は、柚やピーチなどと純米酒を合わせたリキュールが大人気です。価格さえ合えばスパークリングなどもこれからの日本酒マーケットとして有望です。
 居酒屋は時代のニーズに合わせ変化し続け、これから増え続けるでしょう。その時、Sakeはどのように対応し、我々を楽しませてくれるのか今から楽しみです。宮下清子(みやしたきよこ・Kado Enterprise代表・http://www.kadoenterprise.com/:トロント在住)

月刊 酒文化2012年10月号掲載