焼酎に立ちはだかる税制の壁

●「SOJU」と焼酎
 今から15年〜16年前、トロントでSakeと言ったらproduct of USAの月桂冠と大関の2種類のみ、150店ほどの日本食レストランで提供される日本酒は、熱々のhot sakeが花盛りだった。
 その後、日本酒のディストリビューターを始めた私は、トロントでおこなわれたワインの展示商談会に出展した。世界中のワインが集結する会場で、日本酒ブースは弊社のみ。数千人の来場者は、私たちのブースを遠巻きに通り過ぎ、なかには鼻を摘んで顔をしかめて通るお客様もいらっしゃった。それが今ではトロントに、本格的な和食店のほか居酒屋・ラーメン屋を合わせた日本食レストランは約700店もあり、常時120〜150種類のSakeがアメリカ・日本・韓国から輸入され、地元オンタリオ産のカナダ人がつくるSakeまで誕生している。この間、日本酒を扱うディストリビューターも4社から11社に増え、Sakeの需要は本格的なものになりつつある。
 今回は16年前のSakeの状況を彷彿とさせる「焼酎」についてリポートする。現在、LCBO(カナダ専売公社)の店舗に並ぶ焼酎は、宝焼酎USAの『よかいち25度』と韓国製『眞露19度』のみで、価格は『よかいち』が750mlで30ドル(約2400円)、『眞露』が360mlで6ドル(約480円)だ。『よかいち』の価格は、日本の蔵元や焼酎消費者からみれば、異常に高く映るのだが、カナダのアルコール飲料の税制では焼酎はウイスキーやブランデーと同じSpiritカテゴリーとなり、蒸溜酒の倍率と同じ税金が掛かる。蒸溜酒の税率はワインや日本酒のような醸造酒の約1.5倍なので、どうしても高価になってしまう。ところが同じ蒸溜酒にもかかわらず『眞露』は安価で、それはアルコール度数を19度と低く設定したうえで、韓国政府関係者がLCBOに熱心にはたらきかけ、「soju」という独自のカテゴリーを認めさせ、醸造酒並みの税率を勝ち取ったからだと言われている。
●入口はライチジュース割り
 先月、弊社は宮崎県の神楽酒造の本格焼酎の販売を始めた。11月12日に開催された日本レストラン協会主催の「和食まつり」がいいお披露目の場となった。5社のディストリビューターが日本酒、ワイン、ビールを提供したが、本格焼酎を出したのは弊社ともう1社だけ。ちなみに「焼酎」に該当する英語はなく、「Shochu」「Japanese Vodka」「Japanese Spirit」とさまざまな名称で呼ばれている。
 開場早々は、焼酎を知らないカナダ人たちは興味を示すものの、関心の向け方はSAKEにはとうてい及ばなかった。うまく本格焼酎に誘導する方法はないものかと考えていた時に、以前、『Wine, Spirits & Beer show』で見た、あるウォッカメーカーのブースが思い浮かんだ。ウォッカを紹介するのに、オレンジジュースやカシスジュースで割って出していたのだ。そこでオリエンタルな雰囲気づくりも狙って、麦焼酎のライチジュース割りを提供したところ、女性陣に好評。昨今はカナダでも中国系が台頭していることもあって、いい入口となった。
 ジュースで割ったら本格焼酎のほんらいの味がわからないのではというのは杞憂だ。飲み足りないアルコール lover(呑兵衛)は、すぐに芋焼酎のオンザロックに列をつくるものだ。
●ソムリエと本格焼酎の手づくりリキュール
 11月にトロントに新感覚の日本酒場『JaBistro』(http://www.jabistro.com/)がオープンした。それまでの賑やかな居酒屋のイメージを転換して、洗練されたデザインと多国籍のスタッフを採用、多民族のトロントに相応しい空間づくりをコンセプトにした鮨割烹+バー、New Generation Restaurantと言ったところか。
 そんな店づくりにひと役買いそうなのが、本格焼酎のカクテルや手づくりの果実酒だ。カナダ人のソムリエJRさんと一緒に、ザクロ、クランベリー、金柑、グレープフルーツ、スペアミントハーブ、コーヒー豆を焼酎に漬けて、これを提供しようと準備を進めている(写真)。
 一度も焼酎を飲んだことがないというJRさんに、麦焼酎、芋焼酎、長期貯蔵麦焼酎を試飲させてみると、予想外の反応に驚かされた。長期貯蔵麦焼酎はウイスキーの延長線という感じで難なく理解し、芋焼酎も新しいジャンルとしてすんなり受け入れた。ところが意外にも麦焼酎がなかなか受け入れられず戸惑ったのである。ウォッカのすっきりとも、ウイスキーの樽熟成の薫りとも違い、どう掴んでいいかわからない様子だった。
 それでも麦焼酎をベースにして、果実を漬け込むことは面白いと思ったようで、今回、ほんとうにチャレンジすることになった。どんな酒に仕上がっているのか数か月後が今から楽しみだ。
 トロントではまさにデビューしたばかりの本格焼酎だが、どんな場で飲むのがふさわしくなるだろうか。賑やかで伝統的な居酒屋、モダン居酒屋、ラーメン屋、日本食レストラン…どれも合いそうだが、日本のイメージをまとった酒場にとどめてしまうのはもったいない気がする。無数にあるパブやバーは魅力的なマーケットで、焼酎の自由度の高さは、カクテルや果実酒、ピクルスやツマミづくり等、学習次第で大きな市場になる可能性を秘めているように思える。焼酎を使ったカクテルのコンペティションや、ユーザーによる果実酒づくりなどを仕掛けて、すそ野の広い夢のある市場を構想して取り組んでいこうと思う。
(みやしたきよこ・Kado Enterprise代表・http://www.kadoenterprise.com/:トロント在住)
2013年冬号掲載

月刊 酒文化2013年02月号掲載