ふだんの料理では何に合いますか?

 原発事故以来、EUの輸入規制強化より商品を輸出する際に提出する書類が増え、また現地での通関にかなりの時間を要し、日本からの商品入荷が滞り納期が遅れた時期があった。いまだ輸入規制強化は続いているが、最近ではパリの日本食材店やスーパーマーケットでも日本産商品が並び、危機的状態からは抜けつつあるように感じている。
 ここ数年フランスでは日本人フレンチシェフの活躍がめざましい。今年2月に発表された『ミシュランガイド2012』フランス版では小林圭氏がシェフを務めるパリの「レストランKEI」と吉武広樹氏がシェフを務める「SOLA par HIROKI.Y」(いずれもフレンチレストラン)が新たに一つ星を獲得した。「SOLA par HIROKI.Y」ではオープン当初から、メニューに日本酒がリストアップされている。料理はフレンチの基本は忠実に守りながら素材や調味料に日本テイスト、味噌やゆずなどを使い、さらに素材を引き立たせて高い評価を得ている。料理と日本酒とのマリアージュもすばらしく、日本酒はワイングラスでサービスしてフランス人も抵抗なく楽しめるようにしている。
 この2月、3月はパリの各地で震災復興イベントや食品展示会が開催され日本酒をPRする機会が多くあった。パリ日本文化会館で開催された“日本酒と甲州ワインセミナー”には130名の参加者があり、アカデミー・デュ・ヴァンの講師・楠田卓也氏が来仏して日本酒のつくり方、種類や飲み方など初心者向けのセミナーをおこった。質疑応答の際は“日本食品は本当に安全なのか、放射能検査はどのようにおこわれているか?”などの質問が出たが、楠田氏の丁寧な説明に納得しているようだった。その後の試飲会では出品酒リストを参考にしながら10種類以上をきき酒したが、熱心にメモをとる人を多く見かけた。初めて日本酒を口にする人は香りの高い吟醸系を好んでいるようだったが、少し日本酒の知識のある人は山廃仕込みや生酛仕込みの純米酒に興味を持つ人も増えているように思う。試飲会での質問は、冷やでおいしいお酒と燗酒に適している日本酒の見分け方や開栓後の保管方法が多く、また「飲むタイミングは食前か食後か?」という質問に「ワインのように食中に楽しんで」と答えると「では普段食べている料理ではどのようなもの合わせるのがいいのか?」など質問は尽きなかった。
 2月25日から3月4日には「SIAパリ農業祭2012」が開催された。JETRO JAPANブースではお好み焼きや焼きそばなどの試食販売、米や調味料そして日本酒も試飲販売され、たくさんの人で賑わった。
 この展示会にはフランス全国各地から入場者があったが、日本酒ブースで試飲した後、「これは日本酒ではない、もっとアルコールが高いはずだ!(中国の白酒と混同している)」と感想を述べる人が目立った。パリではだいぶ日本酒がきちんと知られるようになってきているが、地方ではしばらく時間がかかりそうだ。とはいうものの試飲して気に入った日本酒を購入する人は前よりも増え、最終日を待たずに完売した商品も多くあった。じわじわと浸透しているのは確かだ。
 一連のイベントに参加していて、ごく一部のフランス人から“今現在販売している日本酒に使用した米はいつ収穫されたものか?”いう質問を受けた。きちんと説明すると理解してもらえ、その他はほとんど風評被害を感じることはなかった。むしろ世界で日本食はますます注目され、フランスでも日本酒への関心が確実に高まっていると実感した。
(伊藤明子 パリ在住:株式会社ドレッシング・エー)

月刊 酒文化2012年05月号掲載