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日系人のいない国で日本酒

 パリではファッションをはじめ様々な分野の展示会が開催されていますが、経済情勢の悪化の影響か昨年に比べると少しおとなしいと言う人もいます。それでもひとつひとつの展示会は活気があり賑わっていて、とても前向きな印象を受けます。
 先日、ウイスキーを中心にリキュールや日本酒の展示会がパリで開催されました。毎年パリの中心地で開催されるこの展示会は一般参加者も有料で参加できます。世界中の高価で珍しいウイスキーやリキュールも試飲できるとあってとても人気のある展示会です。日本酒や焼酎の出展もあり私もブースに立ち寄ってみましたが、午前中だったこともあり昨年に比べ少し入場者が少ないように感じるものの、日本酒ブースには人は途切れることなく次々と立ち止まって関心を示していました。
 数年前までは展示会の出展ブースから「日本酒をテイスティングしてみませんか?」と声をかけてもいやな顔をされて避けられたり、無視されることが多かったのですが、最近ではお客様のほうからブースに来て展示されている商品の説明や試飲を求められるようになってきました。特にソムリエやシェフなどのプロフェッショナルの、日本酒への関心が年々高まっているのを、フランス在住のジャーナリストや日本酒関係者は皆同じように感じています。
 さて、私はパリを拠点にヨーロッパ各地で日本酒のPRをしていますが、パリからは2時間あまりでイギリス、ドイツ、スペインなど主要都市に行くことができます。そこで今回は少しパリを離れて北欧スウェーデン、ストックホルムに注目したいと思います。「スウェーデンで日本酒が飲まれてる?」と疑問に思われるかもしれませんが、すでに数年前から全国各地の地酒が輸入されています。スウェーデンで生活している日本人はわずか3,000人余り、日本食レストランもありますがそのほとんどは日本人以外のアジア系経営です。日系マーケットがほとんどないこの地で日本酒を普及するためには、日本食レストランではなく最初からスウェーデン人経営のレストランで取り扱ってもらうことになります。
 スウェーデンで日本酒を販売している会社は数件ありますが、日本酒を愛し、パッションを持って普及しているのが昨年酒サムライに任命されたAke Norgdren(オーケ・ノーグドレン)さん。Ake さんは20年前に初めて来日した際に日本酒の魅力に取り憑かれ、それ以来すでに60回以上も来日し、全国の酒蔵めぐりをして蔵元と親交を深め、またジョン・ゴントナー氏の日本酒クラスで基礎から学んできました。Akeさんはストックホルム市内の自分の事務所にキッチンアトリエを作り、日本酒のセミナーやテイスティング会を定期的に開催しています。
 先日私がストックホルムを訪問した際にフレンチと日本食フュージョン系のレストランで食事をしました。まず驚いたのは北欧らしい洗練されたおしゃれな店内で、日本酒がワインのようにサーブされ飲まれていたことです。まずアペリティフには日本酒ベースのゆず酒を使ったカクテル(写真)、鴨料理と純米酒、そしてフォワグラとイチジクを使った料理には貴醸酒を合わせるなど、とても自然に日本酒を楽しむことができました。
 今回ストックホルムを訪問してみて、北欧は新鮮なシーフードを使った料理も多いので日本酒とは合いやすいことと、スウェーデン人も日本酒を好む人が多いのを知りました。
 日本酒を海外で販売するには時間がかかり、とても厳しくつらいことも多くあり、まだまだ余裕はありません。それでもいろいろな国を訪れ、日本酒を通じてたくさんの人と知り合い、日本酒を輪を広げることができることは大変幸せに感じています。(いとうあきこ・パリ在住:株式会社ドレッシング・エー)

月刊 酒文化2012年11月号掲載