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ロンドン、そして欧州に進出する甲州ワイン

 日本のワイン? Sakeのことじゃないの?」、五年くらい前までは、これがイギリス人の典型的な反応だった。しかし純日本産の甲州ワインはいまや、ロンドンの老舗デパート「セルフリッジス」、高級スーパー「マークス&スペンサー」やワイン専門店で購入することができる。「和食に最適なワイン」という評判が広まり、一般の認知度も上昇中だ。
 その海外進出努力は〇九年に山梨県内の甲州ワイン生産者一五社が集まった「KOJ(甲州・オブ・ジャパン)」の結成からスタートした。ワイン・マスターのリン・シェリフ女史をコンサルタントに据え、一〇年にロンドンで第一回目の試飲会を開催。以来、イベントや広報活動を続け、オランダ、スウェーデン、ベルギーと、大陸へも販路を広げてきた。
 欧州進出をイギリスから始めたことは大きな勝因だろう。ワインの産地である国は自国のワインを好むが、イギリスにはさまざまな国のワインを楽しむ土壌がある。そして、ロンドンはワイン投資や業界の情報がいち早く世界に発信される拠点であり、ここで認知されることはグローバルに認められることになる。
 今年の試飲イベントで料理とのマッチングセミナーをのぞいた。満席の会場では、うなぎの薫製や甘いタレを乗せた刺身などが一二種類のワインとともに供されている。日本人の私にはどの料理も、繊細な甲州ワインと合わせるには味が濃厚に感じたが、講師のジョー・ワズアック氏の「食文化が異なる西洋人と日本人の味覚は違う。対象市場を研究しつくしたマッチングはこうなる」というコメントを聞いて納得した。
 一緒に海外市場進出を、と他の生産者に呼びかけたのは、グレイスワインの三澤茂計社長。日本固有のぶどうで造る「甲州ワイン」は、一九八〇年代から新醸造法による品質改良が進んでいたが、「世界で認められるワインを造る」という目標を掲げることで、質がさらに上がると考えたそうだ。
 そして栽培方法を変え、ボルドーから専門家を招きEUワイン法に適う製造法を導入するなど、惜しみない努力が続けられた。品質を高めた甲州ワインが次々に国際舞台にチャレンジするなか、昨年は『キュヴェ三澤 明野甲州二〇一三 グレイスワイン』が、世界的なワインコンテストである「デキャンタ・ワールド・ワイン・アワード」で日本初の金賞を受賞した。
 甲州ワインを扱い始めたマークス&スペンサーでは、連動して日本食デリ商品のセールスも上がったと伝えられるが、ワインライターのジャンシス・ロビンソンさんは「ヘルシーな食を求める動向は続き、和食人気は定着しつつある。アルコール度が低くさわやかな味の甲州ワインは、今、世界が必要とするワインだ」と評する。増え続けるファンに支えられ、甲州ワインはロンドンから欧州全体へ、そしてさらに世界中に広まっていきそうだ。
(ふくおかなお・ロンドン在住)
2015年特別号上 掲載

月刊 酒文化2015年04月号掲載