SHOCHU NIGHT OUT

 日本では、「酒を飲む」と言われたらアルコール全般を意味しますが、海外ではSAKEと言われたら日本酒。日本の伝統的な蒸溜酒である焼酎、泡盛はまだあまり知られていません。日本酒の銘柄やタイプを語れるようなニューヨーカーですら「What’s Shochu?  What’s Awamori?」と、聞いたことはあっても日本酒と焼酎の違いをよく理解している方は稀です。
 そんなニューヨーカー達にとにかく焼酎・泡盛を体験してもらおうと、今年2月にジェトロNYと日本酒造組合、そして合計16社の焼酎・泡盛メーカーとが一体となり、初の焼酎イベントを開催しました。その名も「NY SHOCHU NIGHT OUT」。私はイベントコーディネーターとしてお手伝いさせていただき、コンセプトやフライヤーデザイン、ネーミングなどに知恵を絞りました。焼酎・泡盛を実際に試し、メーカーの皆様と触れ合って焼酎文化を感じていただくことを最重視し、一方で焼酎・泡盛メーカーの方達にもNYを感じてもらうように設計しました。そして人気の日本食レストラン(田舎家、酒蔵、炉端や)で焼酎テイスティングのイベントを開催しました。
 翌日は、「Experience Shochu」というタイトルで、NYの有名リカーストアであるAstor Wine & Spirits に併設しているイベントスペース「Astor Center」にて、トレード関係者、プレス関係者向けと一般の方向けのテイスティングを2部構成で開催。映像で焼酎・泡盛のメイキングプロセスの案内、有名ミクソロジストによる焼酎カクテルの提案など、焼酎・泡盛の魅力を広範囲に楽しんでいただけるイベントになりました。そして、この2日間での参加動員数は約1000人にのぼったのです。
 日本の蒸溜文化は、西洋のものに比べてとても穏やかで繊細。なんと言っても、沢山の飲み方があり、食中酒として広範囲に楽しめるところが大きな魅力です。バーボン片手に焼き鳥を食べるより、麦焼酎と焼き鳥のほうがずっと多くの方に共感を得ていただけると思いますし、やさしい甘みを感じる芋焼酎や米焼酎は、どんな食事でも楽しめる蒸溜酒だということを、一人でも多くのノンジャパニーズの方に知っていただきたいと思います。
 実際、イベントにいらしていた多くのアメリカ人が、「蒸溜酒と一緒にお食事をしようなんて考えたことがなかった。日本食と言えば日本酒(SAKE)と思い込んでいたけれど、これからはSHOCHUももっと色々試してみたい!」と評価は上々。
 とはいえ、こちらでは州によって法律が異なりますが、焼酎を販売するにはハードリカーライセンスが必要です。ワインや日本酒、ビールのソフトリカーライセンスに比べ、取得するのも維持をするのも大変高価なので、ライセンスがないので販売ができない、そこまでしてまで取得する気にはならない、というお店が多々あります。
 広く楽しんでいただくために、カクテルの提案等も各社されていますが、日本では安価に楽しめる焼酎も、海外では大変高価なものになります。ウォッカ等の代用に焼酎を使用することを否定はしませんし、焼酎だからこそ味わえる素晴らしいカクテルを提案できるミクソロジスト、バーテンダーもいます。ですが通常のウォッカ等のカクテルに比べると随分高価なものになってしまいますし、商品の理解も厳しいのが実情です。
 日本酒は長年かけてその価値をわかってもらえるよう「日本酒」としてアプローチし続けてきました。焼酎・泡盛だって、バーボンやスコッチウイスキーと並ぶ、いやそれらに負けない「日本の伝統的な蒸溜酒」として盛り上げて行くことができると思います。ハードリカーライセンスを取得して、これらを売りたい!と思わせる魅力あるアプローチを考えましょう。食事とも相性がよい焼酎、泡盛を体験させ、生産地での楽しみ方を知ってもらい、日本の地域文化を伝える。そんな企画を長く継続すれば、焼酎、泡盛は壁を超えるように思います。
(にいかわちずこへるとん・酒ディスカバリーズ代表 http://japanese.sakediscoveries.com/ ニューヨーク在住)

月刊 酒文化2012年07月号掲載