白い羽のように若いワイン「フェーダーヴァイサー」

 ドイツのワインの季節は、「フェーダーヴァイサー」で始まる。この「白い羽」という名を持つ白濁色のブドウ発泡酒は、ワインになる一歩手前のもので、毎年一定期間しかお目にかかれない。グラスに注ぐと、軽く炭酸の泡が立ち、発酵段階の酵母が、白っぽいかすみのように、若いワインを曇らせる。
 味わいがさわやかなのは、乳酸菌のおかげ。まるでサワードリンクを飲んでいるような感覚さえ覚えるだけではなく、胃腸の働きを促進してくれるそうだ。アルコール含量は4%ほど。ところが発酵途中のまま販売されるため、最終的に11%にまで増量する。発酵途中とはどういうことかと言うと、購入後もブドウの糖分がアルコールと炭酸に常に変わるため、フェーダーヴァイスのビンを完璧に密閉すると爆発してしまうそうだ。従ってこの若いワインには、コルクの栓もなく、空気穴の開いたアルミホイルのような蓋で包装されているのが一般的だ。
 9月初旬から10月下旬が旬だが、ワイン屋さんでこのフェーダーヴァイスを購入するときには、手荷物の少ない日にしなくてはならない。というのは、蓋がきっちりされていないどころか、空気アナがあいたアルミ蓋から、ワインがこぼれてしまうからである。ビンを決して傾けないよう大事に持ってかえるのが必須条件だ。
 このように生きたワインだからこそ、少し昔までなら長距離搬送することができなかった。そのためフェーダーヴァイスは、季節が定められているだけでなく、ワイン特産地でのみ楽しめる貴重な発泡酒だったのだ。現在は嬉しいことに産地から離れた場所でも美味しくいただくことが出来るが、やはり日本への発送は無理なだけに、初秋にドイツに足を運ぶ機会がある方には是非お試しいただきたい旬の味だ。
 フェーダーヴァインは、生きているからこそ特別な楽しみ方ができる。それは、発酵の状態を自分で調整できることだ。発酵すれば、ワインの味が辛口になることから、甘すぎるフェーダーヴァイスを購入した場合は、室温で少し発酵をさせ、飲み頃になってから冷やすと良い。甘いフェーダーヴァイスなら、ぶどうジュースを思わせるほどの甘味が口いっぱいに広がり、発酵がすすめば、酸味のある切れ味良く、限りなく我々が一般的に知っている白ワインの味になる。こうして自分好みの味に育ててから楽しめるのは中々面白いものだ。
 この甘口の若いワインのドイツ的な楽しみ方はと言えば、意外とデザートワインとしてではなく、塩辛くボリュームのあるものと組み合わせることが多い。クラシックなところでは、オニオンケーキと呼ばれるフレッシュチーズとベーコン、そしてたまねぎが乗ったピザのような一品や、大きな豚の胃にお肉やハーブを詰めて調理したザウマーゲンと呼ばれる肉料理、あるいは栗をつまみながら飲むのも良く知られている。美味しい物を食べながら飲むフェーダーヴァイス。ノド越しがいいからと飲みすぎて、翌日二日酔いになるのをわかっていながらも、毎年同じ失敗を繰り返してしまうのも、この季節ながらの楽しみとも言えるだろう。
(たかもとみさこ:ベルリン在住)

月刊 酒文化2008年11月号掲載