身体の芯から暖まる!グリューヴァイン

 クリスマス前の時期に入ると、ドイツでは街のあちらこちらでクリスマスマーケットが開催される。クリスマスのプレゼントにピッタリな可愛い手作りロウソクや、暖かそうなマフラー、木彫りの人形や、溢れんばかりのスイーツを売る小さな小屋が、ところ狭しと並ぶ。少し大きめのクリスマスマーケットだと、特設遊園地とばかりに、カラフルなライトをつけた小型ゴンドラや、メリーゴーランドが登場し、輪投げで大きなぬいぐるみを手に入れようと、子供達が目を輝かせながらはしゃいでいる。そして、夕方頃になれば仕事帰りの大人たちも集まってきて、特に何を買うというでもなく、出店の焼きソーセージやりんご飴を頬張りながら店を冷やかして歩くのだ。まさに大人から子供まで楽しめるクリスマスの風物詩と言えるだろう。
 さて、ドイツ人がクリスマスといって連想するのは、クリスマスツリーを飾る柔らかい照明や、クリスマスソング、そしてクリスマスにいただく豪華なお食事だが、忘れてはならない重要なクリスマスの要素に、「リッチな香り」が挙げられるだろう。こうしたリッチな香りを演出してくれる、クリスマスらしい代表的なハーブにシナモン、レモンピール、オレンジピール、クローブやスターアニスなどがあり、これらはクリスマスのケーキや、クッキーなどによく用いられるので、12月になればあちらこちらから、こうした甘い香りが道行く人のクリスマス気分を刺激してくれる。
 そして、これらのハーブをふんだんに使ったホットドリンクこそ、クリスマスシーズンに欠かせない「グリューヴァイン」だ。
 名称のグリューとは、白熱するとか、熱すると言う意味をもっていて、ヴァインはワインのことを指す。クリスマスマーケットを何時間も堪能して、どんなに身体が冷えきっていても、このグリューヴァインさえ飲めば、芯からカッカと温まることができるのだ。そのため、マーケットにあるグリューヴァインのスタンドはいつも盛況で、店先には大きなコーヒーカップになみなみと入れられた、甘くて暖かいこの飲み物を、ハフハフしながら楽しそうに飲んでいる大の大人達の顔が並んでいる。まさにこれこそ幸せの味だ。
 赤ワインに、先程のクリスマスハーブを入れて、さらに甘味料で甘く味付けをし、沸騰させないよう気をつけながら入れるのがグリューヴァインのポイントだ。何故なら熱しすぎると、アルコール度が下がってしまうからだ。最低7%なければ、グリューヴァインとは呼べない。甘くて飲みやすいからといって、普通のホットドリンクの勢いで飲んでしまうと、その温かさも手伝って、すぐに良い気持ちになってしまう。
 さて、クリスマスにはリッチな香りがつき物であると言ったが、ここでのリッチとは、プレゼント等の物質的な豊かさを指すのではない。それは栄養価の高い、健康な自然の恵みを象徴するようなもの全てを指している。それが証拠に、凝ったスタンドで出されるグリューヴァインには、ハーブの他に、ナッツやフルーツがゴロゴロ入っているものもあり、豊かなイメージをつくりあげ、飲むものの心を満足させてくれるのだ。
(たかもとみさこ:ベルリン在住)

月刊 酒文化2009年01月号掲載