ドイツの個人主義的ビールの飲み方

 ヨーロッパのようにいろいろな国が隣り合わせでも、お酒の習慣は隣国と驚くほど違う。なるべく大人数でワインを飲みながら様々なおつまみを楽しむスペインや、お昼のランチからワインがセットで出てくるイタリア。そしてドイツと言えば、ひたすら会話を肴にお酒を頂くのが主流。
 勿論レストランでのお食事時に飲むこともあるけれど、知人と「飲みに行くか!」と言って出かけると、お店でひたすら論争しながらアルコールを飲むことになる。その話のテーマと言えば家庭やプライベートな内容、最近みた映画の批評だけに留まらず、政治や社会問題にまで発展するのだから終わりがない。会話が肴の国なので、お酒を嗜む場所におつまみがないことが殆ど。ここ数年おつまみ文化の根付いているスペインから、タパスバーなるものがドイツにも多く開店され、それなりに人気はあるようだが、「一皿でお腹が一杯にならないなんて」と文句を言うドイツ人も少なくない。
 お酒ばかりになってしまう理由は、ドイツの食文化自体あるように思う。独立した個人が尊重されるこの国では、レストランの献立もワン・プレートものばかりだ。一枚の皿にお肉や魚のメイン、そしてジャガイモに野菜の付けあわせが盛り付けられてサーブされる。前菜にサラダを頼もうなら、大きなボールに馬の餌ほどのサラダ菜やニンジンが入ってでてきてしまい、メインが食べられないほどお腹が一杯になってしまうのである。ワン・プレートのため、友達と分け合ってお互いが味見をしながら食べると言う感覚が薄い。ウェイターに頼めばとりわけ用の小皿とフォークだって持ってきてくれるが、最初からそんな気配りがされることはまずない。驚くのは丸いターンテーブルを回しながら大人数で愉しむ中華料理でさえ、ドイツではワン・プレートであり、みんなで分け合って食べるというのを提案しない限り気づくと各人が頼んだ皿を一人で囲んで食べてしまうのである。
 ビールも同じように個人主義的に頂くのが普通。ドイツには殆ど大瓶が存在せず、中瓶ビールを頼んでもグラスに注いで持ってきてくれる。南ドイツなら一リットルのグラス、北ドイツでも五〇〇mlのグラスまであるから、自分で継ぎ足して飲む必要が殆どない。それどころか、ほかの人に注いであげて分け合うなんていう思考がないので、頼んだ瓶は自分の前にずっと置きっ放しだ。バーやクラブでビールを頼むと瓶ビールがグラスもつけずにそのまま出てくることが殆どだし、若い女の子だって平気でビールのラッパ飲みをしたり、片手に持ちながら踊ったり。勿論街頭のお祭りで頼むビールも瓶ビールだし、皆各自ビール瓶を片手に公園でくつろいだり、散歩をしたりしながら愉しむ。従ってビールは一人で最初から最後まで飲むものなのである。
 ちなみに、お勘定も大体割り勘。相手に気遣うことなく、自分が好きなものを頼んで、自分の分は自分で支払う。何とも実用的な国民性と言えるだろう。
(たかもとみさこ・ベルリン在住)

月刊 酒文化2009年03月号掲載