アルコールフリーがトレンド

 カフェでミネラルウォーターを頼んでも、ビールを頼んでもあまりお値段の変わらないドイツ。ビールは殆ど水だと思われているのかも、というほどよく飲まれる。ところがその消費量も昨今減少気味。1976年には一人頭年間平均150リットルを飲んでいたのに、2008年ではなんと110リットルと大幅に減少しているとか。この減ってしまった国内ビール消費量も、2008年までは外国への輸出量で何とか埋め合わせられていたのだが、最近はそうも行かないのが現状だそうだ。こうなってくるとビールの価格が値上がりするのではないかと言われているが、運よくエネルギー燃料代の値下げのおかげで何とかそれは免れそうだ。この経済不況において、実際価格の引き上げはあまり賢い方法ではないし、結局はビール製造業者が消費者の需要に合わせて製品を改良していくしか生き残り法はないと言える。
 さて、実際消費者のニーズに応えるビールはと言うと、ここ数年売上に大きな伸びを見せるアルコールフリービールや、ビールをソーダで割ったアルコール度の低いビールカクテル類だそうだ。年間530万ヘクトリットルの生産高を上げるクロンバッハー醸造所を例に挙げると、メインの製品であるピルスナーは4.2%、生ビールは2.7%の消費減少を見せている。これに対して売上を伸ばしているのは、ラドラーと呼ばれるビールとレモネードのビールカクテルと、アルコールフリービールであると言うから驚きだ。
 さて、このアルコールフリービールは、トレンドとなる前からドイツではかなり一般的に飲まれていた。アルコールを取れない妊婦や車を運転するドライバーだけでなく、健康的にはなにもアルコールを控える必要のない人たちも、ほかのドリンクを注文するノリで飲むほどだ。ビールメーカーがたくさんあるドイツでは、アルコールフリービールの味も様々。限りなく普通のビールに近いものもあれば、なんとなく物足りない味の製品もあり、片っ端から試して自分好みのアルコールフリービールを探すのも楽しいものだ。
 そしてアルコールフリービールを健康ドリンクとして飲む人も増えている。ビールはスポーツドリンクと同じアイソトニック飲料であり、スポーツで汗をかいたあとに飲めば吸収も早く、味のない水を飲むより大量に飲むには最適であるという声もあるほどだ。カロリーと炭水化物のバランスも良く、ほかのドリンクを飲むことを考えれば低カロリーでもある。普通のピルスナーのカロリーが100mlで43キロカロリーであるのに対し、アルコールフリービールはたったの28キロカロリーであり、これはコーラのカロリーの半分に当たる。また、脂肪が含まれておらず、コレステロールがない上、ミネラルを多く含み、糖分も低いのが長所だ。
 同じく未発酵のノンアルコールビールであるマルツビールは、ドイツでは子供のビールと言われており、同じく微量のアルコールを含んでいながらも母乳を増やすことから、授乳時の女性にも大人気。ただしドイツの法においてアルコールフリービールとは、0.5%以下のアルコール度飲料を指すため、必ずしもまったくの0%ではない。健康上の問題からアルコールを微量たりとも飲めない人には向いていないので、注意が必要だ。
(たかもとみさこ:ベルリン在住)

月刊 酒文化2009年04月号掲載