小売店での個性溢れるワイン試飲会

 個性豊かな店で溢れているドイツの首都ベルリンでは、ワイン屋と一口に言っても様々な形がある。高級デパートにあるワイン販売コーナーのワイン屋から、レストランの一部でワインを販売している店、そして所狭しとワインの瓶が並ぶ小売店と少なくとも3パターンのワイン屋があり、ひとつの通りに何軒もこうした店が軒を連ねることも珍しくない。
 デパートのワイン屋が高級感と品数で勝負なら、小売店であるワイン屋は、特別にチョイスされたワインと、店の個性が売りだ。ドイツワインのメッカであるライン川付近と違い、ベルリンでもっぱら人気があるのは輸入ワインだ。南米や南アフリカのワイン、そしてカリフォルニアワインがどこでも簡単に手に入る。そしてフランス、イタリア、スペインワインを専門に扱う店が圧倒的に多い。勿論これら外国のワインと共に、国内ワインで選別されたものだけを揃えている店もあるが、殆どの小売店は各国のワインを揃えることで豊富な品揃えを売り物にしていると言えるだろう。
 そんなベルリンでここ数年需要が増えているのはスペインワインだ。何しろスペインワインは比較的安価なことから、同じ値段を出せばフランスワインよりもおいしいものが手に入る。また太陽をたくさん浴び、樽に良く寝かせることで薫り高く力強いスペインワインのおいしさが、ようやくドイツ人の舌にもなじんできたと言えるだろう。スペインでは、つまみであるタパスを食べながらお酒を飲む習慣があることから、スペインワイン専門店にいけば、ワイン以外にスペイン製の生ハム、オリーブ、高級ツナ缶、チーズ、オリーブオイル、子鰯の塩蔵アンチョビ、さらにはスペイン産のスウィーツ、蜂蜜やチョコレートまで手に入る。小さな店ほど拘って、小さなボデガ(酒蔵)と契約をし、スーパーでは絶対手に入らない少量生産のワインを扱っているので、とことんスペインワインが好きな人はこうした専門小売店がお勧めだ。
 多くの店ではその場でグラスワインを頼んだり、おつまみやサンドイッチなどの軽食を頂きながら、食後にはコーヒーを飲むこともできる。このようにある一国のワインのみを扱っている場合、文化的なイベントが催されることも多く、スペイン映画のビデオ上映会や、フラメンコダンサーを呼んでのストリートフェスティバル、そしてミニコンサート、自国出身者の写真や絵の展覧会などグルメ以外を目的に人が集まる場所にもなっている。勿論中心となるイベントはワイン試飲会であり、何種ものワインを軽いものからコクのあるもの、そして最後はデザートワインまで試すことが出来る。ホテルで開催されるワイン試飲会と違い、小売店ではラフな格好で出かけることができるし、隣に座っている人たちと一緒に語り合いながら、ワインの価値を判断するというよりは、ワイン好き同士でワインを飲むことそのものを楽しむことができる。
 勿論試飲会では、各ワインに合ったその国の特産品やお料理を試食するのも楽しみのひとつであり、試飲会用におつまみをセッティングしてくれる店もある。その他特殊な試飲会では、チョコレートと赤ワインの試飲会、そして葉巻とワインのコンビネーションを愉しむ試飲会なども昨今人気である。
(たかもとみさこ:ベルリン在住)

月刊 酒文化2009年05月号掲載