週末の朝食と発泡酒

 ベルリンでは週末になるとあちらこちらのカフェで、友達や家族が集まって朝食を取る姿が見られる。せっかくゆっくりできる週末に早起きをするの? と思うだろうが、ベルリンの週末朝食メニューは、ほとんどが午後三〜四時まであってブランチに近い。金曜日の夜遅くまで遊んでいた若者は、お昼前にごそごそベッドから起き上がり、何も食べずにカフェに行ってランチ兼用の豪華な朝食を取る。お気に入りのカフェでいつものコーナーを陣取り一人でゆっくりと新聞を読みながら、あるいは友達と待ち合わせて皆でわいわいとおしゃべりをしながら週末のスタートを楽しむ。もちろんそんな優雅な時間を過ごしているのは若い世代だけではない。ベビーカーに赤ん坊を乗せたママやパパたち、それに年配の人もゆったりとした週末を堪能しているのだ。
 カロリーが高く、繊細さに欠けるドイツの食文化は、ヨーロッパでも、イギリスに並んであまり評判が良くないが、この朝食文化だけはどこにも負けない素晴らしさだ。バリエーションも豊富で、フレンチブレックファーストはクロワッサンにママレードとバターがついたもの。一緒にミルクたっぷりのカフェオーレを頼むとすっかりフランス気分になれる。朝から甘いものが苦手な人は卵やハムやチーズがたくさんのった農夫風朝食セットを頼めば夕方すぎてもお腹は一杯だ。
 ビュッフェ形式の朝食で、お客さんを魅了するカフェもたくさんある。チーズやサラダやハムが大きな皿に乗ってカフェのカウンターに並ぶ。フルーツやお花できれいにデコレーションされて華やいだ雰囲気。ビュッフェを頼む客は、飲み物を注文して、大きなお皿に食べたいものをどんどん載せてゆく。パンも黒パン、白パン、食パン、そして穀物たっぷりのトーストと様々な種類がそろっている。朝からヘビーなパスタやグラタン、ソーセージを出す店も多く、アラビアン風のカフェではアラビア料理のビュッフェ、イタリアン風カフェではイタリア料理ビュッフェがサーブされ、最後にはデザートも楽しむことができ、何時間もかけて食べ続けてもすべての料理を制覇することが大変なほどだ。
 こんな立派なドイツの朝食では、お酒がサーブされることも珍しくない。ロマンチックに恋人と一緒に頼むカップルセットのブレックファーストには、アペリティフとして発泡酒のグラスが一杯ついてくるのが定番だ。二人で朝から細いシャンパングラスを傾ければ、これまた優雅な週末気分を満喫出来ると言うものだ。最初は朝からお酒?! と驚くが、出てくるものがチーズやハム、そしてスモークサーモンなので、とてもよく合う。一人で食べきるのが大変なほどさまざまな種類のものが山ほどお皿に盛られていて、飲み物を何度か注文しながらこれまた何時間もかけて堪能するのだから贅沢だ。
 こうして腹ごしらえができたら、午後から長い道のりの森の散歩をしたり、サイクリングを楽しんだり、或いは映画や観劇に出かけて丸一日を楽しむ。ドイツのアクティブな週末を支えているのはまさにおいしい朝食と、一杯のシャンパンなのである。
(たかもとみさこ・ベルリン在住)

月刊 酒文化2010年03月号掲載