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ドイツにおける食べるビールのありかた

 ドイツ人がビールをたくさん飲むことは誰でももちろん知っているだろうが、ドイツではビールは飲むだけでなく、食べるものでもある。つまり色々なドイツ料理の材料として使われているのだ。ワインが西洋料理のソースになることは良く知られているし、日本でも似たところで酒蒸しとい言うシンプルかつおいしい料理法があるけれど、ビールを調味料として料理するのは、あまり想像がつかないだろう。
 特にビールを使った料理法では、お魚よりも、肉が合う。ドイツで肉と言えば豚が有名だが、豚肉料理にもビールは欠かせない。塩コショウした大きな塊の豚肉に焼き目をつけ、「スープのお野菜(Suppengemuese)」といわれるセロリ、にんじん、ポロ葱、それにお好みのハーブも加えたものに、ビールを注いでオーブンで長時間焼く。焼けば焼くほど肉汁がプレートにたまってくるので、それをかけては焼き、かけては焼きを繰り返して1時間半ほど経ったところで肉を取り出す。冷えたらそれをスライスして皿に豪快に盛る。肉とスープのお野菜からでたソースを、綺麗に漉してさらに煮詰め、仕上げに焼き豚の上にかけていただく。じっくりビールをかけて焼き上げたこの豚肉、おいしいと言ったらない。何しろビールにピッタリ合うので、食卓を囲んでわいわいやるのに最適だ。ビールはワイン同様、お肉をやわらかくしてくれるので、オーブン肉料理以外にも、バーベキューのお肉を漬け込んむのにも向いている。しかもグリルをしたときに、ぱりっと表面が仕上がるから不思議だ。
 ビールを調味料として使う、もう少し変わったドイツ料理は、天ぷらだ。日本のてんぷらなら冷水を使うが、ドイツではビールを小麦粉に注ぐ。その衣であげると、ふわっとした、やわらかいドイツ風てんぷらの出来上がり。野菜を揚げるのが一般的だが、他にもカマンベールチーズが合う。北ドイツでは、甘いものとしょっぱいものを組み合わせた料理を好む傾向があるが、カマンベールのビール衣天ぷらもその一つ。熱々のカマンベールに、甘いコケモモのジャムをかけて頂くのだ。ナイフで衣を割ると、中からとろけるチーズが出てきて美味。甘いジャムが、意外に塩辛いチーズとマッチして、ビールが進むこ。
 それではご家庭でも簡単にできる我が家のビール衣のてんぷらレシピをここでお教えしよう。
材料:小麦粉150g、塩大匙半、バター40g、ビール大匙8杯、卵2個
小麦粉、塩、そしてビールを滑らかになるまでまぜる。卵は白身と黄身にわけ、黄身をさっきの生地に混ぜ15分ほど寝かせる。そこに溶かしたバターと、硬くあわ立てた卵の白身をまぜあわせて出来上がり。これに野菜やチーズをいれてさっと揚げるだけ。
 おやつにバナナやパイナップルなどの果物を揚げてもおいしい。日本の天ぷらの衣はあまり混ぜないのが基本なのにくらべて、こちらの衣は良く混ぜる上、寝かせる。だからこそあのふんわり、モッタリしたちょっとヘビーな天ぷらになる。揚げたものは、ヨーグルトソースやレモンで食べてもおいしいが、塩コショウもいける。もちろん忘れてはならないのは、ビールを飲みながら食べること。やはり材料に使われているドリンクが一番合うからだ。
 これから暑くなる季節、揚げたてのビール風味天ぷらをかぶりつきながら、なみなみと注がれたビールを外で飲む。ドイツのちょっとした風物詩である。
(たかもとみさこ:ベルリン在住)

月刊 酒文化2010年07月号掲載