∽∽∽--------------------------------∽∽∽

甲州と和食のペアリングセッション

 ロンドンにあるレストラン、ROKA Mayfair(ロカ•メイフェァ)とYashin Ocean House(ヤシン•オーシャン•ハウス)は、どちらも美食家に人気の高い高級日本料理店です。この秋、両店において甲州ワインと料理のペアリングセッションがおこなわれ、その様子がプロモーション記事としてイギリスを代表するワイン専門誌『デカンター』にて掲載されました。そのセッションの様子をお伝えします。スポンサーは「日本海外プロモーションセンター」略称JFOODO(ジェイフードー)。日本の食品輸出を強化するためのサポート組織として、日本ワイン、日本酒、米粉など現在7アイテムのプロモーション活動を熱心に進めています。
<炉端料理としっくりマッチする甲州ワイン>
 セッションをリードしたのは、イギリスの著名なワイン専門家、ピーター•マコンビーさん。マスター•オブ•ワイン、インターナショナル•ワイン•コンテスト(IWC)共同会長、IWC日本酒部門審査員、トップレストランのワイン•コンサルタントとたくさんの肩書きを持ち、日本酒と日本のワインについても深い見識をもつエキスパートです。
 今回のペアリングでは、シェフとソムリエが甲州ワインと合わせた料理を考案し、マコンビーさんとペアリングについて語り合いました。まず初めは、炉端料理のROKA Mayfair. 店名は「炉火」を意味し、イギリス国内外にいくつかの支店を持っています。創業者からシェフやソムリエにいたるまで、日本人ゼロのチームで運営しているとは信じがたいほど、オーセンティックな日本料理店です。ランチタイムが近づき、「オハヨゴザイマス!(「ハ」と「ザ」に強いアクセント)」と、威勢のよい掛け声とともに開店前のスタッフミーティングが始まりました。
 プロモーション記事は、すしと甲州ワインの相性を専門家が探り読者に伝えるという企画です。店のヘッドソムリエでROKAグループのドリンク•バイヤーも務めるローラ•ブランシェットさんと、ヘッドシェフのアンドレ•カミーロさんは、すしとともに得意の炉端料理を交え、4銘柄の甲州ワインとのマッチングをつくり上げました。
 「甲州ワイン」と名乗ることができるのは、日本固有のぶどうである「甲州種」100%でつくられた白またはスパークリングワインのみ。しかし同じぶどうからつくっても、バラエティ豊かな味と個性があります。「欧州人が好む濃い味付けの和食にも、素材を味わうシンプルな野菜巻きにもマッチする柔軟さも魅力の一つですね」とマコンビーさん。すし以外では、銀ダラとカニの餃子、炉端ステーキとの組み合わせが、ソムリエとシェフの大胆なチョイスに舌を巻かせるペアリングでした。
<究極のすしの味わいをさらに高める甲州ワイン>
 第2回目のセッションは、すしレストランのYashin Ocean Houseでおこなわれました。エグゼクティブ•シェフの池田伸也さんと仲間が共同創業したこの店は、西ロンドンの超高級住宅街の一画にあり、老舗デパートハロッズの近くではすしバーもやっています。卓越した技術で生魚を熟成させたネタが食べられることで世界中のグルメに知られています。ヘッド•ソムリエおよびYashinグループのドリンク•ディレクターである織田楽さんによると、店にあるワインすべての中で甲州がもっとも売れているそうです。「和食に合うワインとしてお勧めすると、どのお客さまにも間違いなく喜んでいただけます。鉄分が少なく口の中が魚臭くならないこと、酸味が柔らかなことから、デリケートな和食の味が消されないというのが大きな理由だと思います」と語ります。
 池田シェフは5銘柄のワインに合わせ刺身、うなぎの白焼きにつづいて3皿の異なるコンセプトのすしを創作。マコンビーさんは、「甲州ワインはすしと出会うと変身する!」と目を見張りました。「単に料理と寄り添うだけでなく、味に輝きを与えるというパワフルな役割を果たします。前回とまた違う発見です」と喜んでいます。同席していたデカンター誌の副編集長も、試飲をしては熱心にうなずきながらメモを取っていました。セッションの後で書き上げられた記事はそれぞれ、12月と1月号に掲載されました。
<日本からロンドンへ、ロンドンから世界へ>
 ロンドンには世界のワインが集まり、国際ワイン市場の首都と目されています。もっとも権威のある「マスター•オブ•ワイン」の資格をもつワイン専門家がいちばん多いのもロンドンです。ロンドンで得た評判は世界に向かって確実に広がります。150年もの歴史を持つ日本のワインづくりは、今まで国外にあまり知られていませんでした。しかし、この10年間にわたってロンドンで続けてきた地道な活動は効果を上げています。デカンター誌は、過去に何度か甲州ワインを取り上げたものの、料理、とくにすしとの組み合わせをここまで具体的に掘り下げた記事はなかったとのこと。世界のワインを知ることに興味旺盛な読者からの反響が楽しみです。
(ふくおかなお:ロンドン在住) 
2020年冬号掲載

月刊 酒文化2020年06月号掲載