東南アジアのドブロク その2

 前号でフィリピン、タイ、カンボジアなどに共通するもち米のドブロク「タプイ」と「カオマーク」をご紹介した。これらは自家製の酒ではあるが、餅米を水で洗って麹菌をまぶすだけなので、甘みのある米粒の割合が高い「甘酒」に近いものである。
 もう少し本格的な米どぶろくは、タイでは「サトー」と呼ばれる。以前はセブンイレブンで販売されていたそうだが、最近はバンコクではまずお目にかかれない。地方では日常的につくられていて、蒸溜すると「ラオ・カオ」と呼ばれる米焼酎になる。サトーのアルコール度数はワインと同じ12%程度、ラオ・カオになると40%近い。
 タイ最大手の酒造メーカーTCCグループに勤務する知人(技術者)によると、タイで清酒づくりに着手したメーカーは過去にいくつかあるそうだ。象のロゴマークで知られる「ビア・チャン」を製造し「アルコール王」と呼ばれる巨大財閥のTCCもそのひとつで、ジャポニカ米をチェンマイに植えることまで始めたという。しかし残念ながら現在、タイで日本式の清酒を製造しているメーカーはないそうだ。
 1月にバンコクで開催された一村一品運動(OTOP)の展示販売会では、何種類かの瓶入りサトーを見つけることができた。バンコクの若者が珍しそうに集まっていた。一瓶(750ml)で20〜40バーツ(100円程度)。甘みが強くて濁りがあり、日本の清酒とはかなり異なるが、独特の風味がある。
 一村一品運動を導入・推進したタクシン元首相は、かつて酒を密造していた業者に免許を与えて合法化することで酒税を確保してきた。一時は数千の登録があったが、その後、税金が上がると多くが密造に戻ったという。
 バンコクの北のほうで密造酒を売る店を訪ねる機会があった。民家のように見える道路沿いの古い建物の軒先に、赤と黄色の液体の入った瓶が並んでいる。一見、トマトジュースとオレンジジュースのようなそれらは、まぎれもなくサトーだった。胚芽米からつくられると黄色、黒米からつくられると赤色になるという。こちらも1本40バーツ(約120円)。奧の段ボールの中にたくさんのストックがあり、店の女性が出してきてくれた。どこでつくっているのは教えられないというからおそらく密造酒なのだろうが、「ラマ5世次代からの伝統あり・酒を売る店」と住所・電話番号の書かれた名刺を渡される。税金は払っていないが、払わなくてもよいのだという。道の向かいは法務省が管理する刑務所。そんな場所で堂々と販売しているのだから、おそらく何らかの理由で本当に酒税を免除されているのだろう。アルコール度数は「だいたいビールと同じ」とのこと。温めると発酵が進んでしまうので冷蔵庫に保管し、1週間をめどに飲みきるのがよいという。
 この店のサトーは瓶の底にはうっすら米粒が残っていた。甘みがさらに強く、薄いチューハイかジュースのような口当たりである。辛かったり酸っぱかったりするタイ料理、特に東北タイの激辛料理にはぴったりである。
(きばさや・バンコク在住)
2014年秋号掲載

月刊 酒文化2014年09月号掲載