酒大国になるベトナム

 ベトナムがビール大国となりつつある。「世界主要国のビール生産量」(キリン調べ)によれば、ベトナムは2015年版で8位。アジアでは中国、日本に続いて3番目だ。しかも前年比で9%増加しており、世界全体がマイナス0.7%であったのと対照的だ。国民の平均年齢が28歳と若く、人口も10年後には1億人に達する見込みのベトナムは、遅かれ早かれ日本を抜いて、アジア第2位のビール消費国となるだろう。日本企業はサッポロが2011年に工場を建設、キリンとアサヒも地場大手企業を買収したり、業務提携したりするなど熱い。
 ベトナム経済は数年前にバブル崩壊を経験し、高いインフレ率や通貨安に悩まされたが、ここ2年間は6〜7%の伸びで経済が成長しており、好景気に湧いている。中間層も分厚くなり、日本のイオンや高島屋のほか、韓国系資本の小売店も進出し、消費市場は大いに盛り上がっている。
 ベトナムで酒を楽しむにはいくつか方法がある。一番ローカルな雰囲気が漂うのは、地元の人に人気のレストランや、ビアホイと呼ばれるベトナム式ビアホールだ。ベトナムに行く機会があれば、現地の知り合いやホテルのスタッフにお勧めの店を聞いて訪ねてみて欲しい。
 最近はライブミュージックを聴きながら酒を楽しめるバーやルーフトップバーなど、おしゃれな店も増えた。音楽のジャンルも多彩で、地元の有名な歌手やサックス奏者が登場するところもある。こうした店飲まれているのはカクテルや洋酒。流行に敏感なベトナムの若者たちの様子を観察するのも一興だろう。
 地元の酒も豊富だ。ビール、焼酎、ワインは、地元産のものが広く出回っており、日本のベトナム料理レストランでもよく目にする。焼酎はアルコール度数の高いものが多く、味もクセがある。もち米でつくられたものはネプモイと呼ばれ、うるち米のものはルアモイと言う。ワインは高原地帯のダラットで生産されるものが有名で、フランスの植民地時代から製造されている。
 ビールは、北部にある首都ハノイと、南部で最大の商業都市ホーチミンシティでそれぞれ銘柄が違う。ハノイではハノイビールで、ホーチミンシティでは333(バーバーバーと読む)やサイゴンビールが人気だ。どちらもひと缶日本円で100円以下だ。
 すでにベトナムは酒大国だが、これからも消費量は増えて、地元の酒の品質は向上していくだろう。成長著しい経済やおしゃれな雑貨、フレンチコロニアル様式の美しい街並みだけでなく、酒という視点からも目が離せないアジアの国のひとつである。
(かわばたたかし:シンガポール在住)
2017年冬号掲載

月刊 酒文化2016年12月号掲載