ブラジル育ちのビール、東南アジアへ

 東南アジア各地ではそれぞれ地元産のビールがあるが、外国産ビールも広く飲まれている。今回は、東南アジアでよく見かけるようになったブラジル育ちの「スコール」というビールを取り上げてみよう。
 東南アジアでメジャーな外国産ビールの代表格は、「カールスバーグ」と「ハイネケン」だ。最近は、日本のビールもベトナムなどで現地生産したものが出回るようになった。現地生産して値段がこなれてきたので、一般のスーパーに並ぶようになり、中クラスの日本食レストランでも飲めるようになってきた。中間層や富裕層の人たちの間でお気に入りの1つにもなっている。このほかのタイの「チャーン」「シンハー」、中国の「青島」も一定の存在感がある。
 そうしたなか近年はブラジルの「スコール」が大きく伸びた。マレーシアに住んでいた2000〜06年頃に見た記憶は無いが、2016年にシンガポールに赴任してからはスーパーや地元レストランでよく見かけ、マレーシアやタイでも目にした。レストランの店員によれば、ここ数年で東南アジア市場に出回るようになったそうだ。
 自宅近くのスーパーで缶ビールの価格をチェックしてみたところ、「スコール」は一番安い価格帯だった。最安値は地元ビールのタイガーの「タイガー・ラドラー」が1.7ドル(約137円)だが、「スコール」はそれに次ぐ1.85ドル(約149円)だ。アルコール度数の低い「タイガー・ラドラー」は好みが分かれるので、1.85ドルという安さは魅力がある。
 他のビールはというと、通常の「タイガー」が3.1ドル、もう一つの地元ビールの「アンカー」が2.25ドル。そして欧州系の「カールスバーグ」2.95ドル、「ハイネケン」3.8ドル、日本の「サッポロ・プレミアム」が3.75ドル、「シンハー」が3.35ドル、「青島」が3.55ドルだった。
 どれもドライな喉越しだが、日本のものよりも少し苦みがある。東南アジアではしっかりした味のビールはあまり好まれない。食べ物は脂っこいものや甘い物が多く、気温は一年中30℃前後だからあっさりした味のほうが好まれるのはよくわかる。
 「スコール」はもともと欧州で誕生したが、オランダなどではあまり伸びなかった。最初に成功したのはブラジル市場で、1990年代からシェアを伸ばし、今ではブラジルで一番人気のブランドに成長した。それが地球の裏側にある東南アジア市場に攻勢をかけてきているのだ。よくよく考えてみれば、ブラジルの気候は東南アジアとよく似ている。「スコール」が東南アジア市場で受け入れられても不思議ではない。
 「スコール」の缶を見てみると、生産はマレーシアのカールスバーグ工場となっており、それをカールスバーグ・シンガポールが輸入して販売している。現在、このブランドを所有するのはABインベブ社だ。同社はもともとブラジルのビールメーカーでM&Aを繰り返して、世界最大のビールメーカーになった。そしてここではカールスバーグがライセンス生産を請け負っている(除くアフリカ)。ビールの消費が急成長する東南アジアに、ビールメジャーはこのようにしっかり入り込んでいる。
(かわばたたかし:シンガポール在住)
2017年春号掲載

月刊 酒文化2017年05月号掲載