白酒で乾杯─夜は50度、昼は30度

 4月に首都北京と隣接する河北省に行ってきた。ここには、周近平国家主席が発表したばかりの新しい経済特区「雄安」がある。いち早く現場を見に行こうと思い、北京市内からバスに1時間ほど揺られて、中国在住の知人と一緒に雄安に到着する。
 バスターミナルに着くなり、知人の友人たちが歓迎会をすると、地元の有名レストランに連れて行かれた。次々とおいしそうな料理が運ばれてくる。そして、「カンペイ!」が始まった。中国に来たらやはりこれだ。一時期に比べて、最近はすさまじい飲み方はしなくなったと言われている。周主席から贅沢を控えるように、という指令が政府関係者に出ている。その影響もあり、民間人でも派手な宴席は避けているようだ。
 酒は「白酒」で度数は58度、お猪口くらいのグラスに注がれていく。大丈夫かと思いつつ飲んでみると、最初はカッとくるがさらりと飲める。
 歓迎会に集まってくれた人は地元の社長たち。飲み慣れている彼らでもさすがに強いらしく、チェイサーが必要になってくる。そこで出されたのは、中国のビール『雪花』だ。少々面食らいながらも、彼らの歓迎を受ける。そしてホテルに行き、ベッドに横になった瞬間、深い眠りについてしまった。
 翌日。不思議なことに、二日酔いの気持ち悪さは全くない。いや、むしろ、目覚めがよく、すっきりするほどだった。この日は地元の人たちが雄安経済特区の建設予定地などを案内してくれるという。ひと通り主な場所を巡った後、湖のほとりにあるレストランで昼食をとった。
 途中から人が集まってくる。白酒を抱えながら。ただ、今度の白酒は30度台と良心的だ。聞けば、昼から50度の酒はさすがに飲まないという。この「昼用」白酒も、食後の移動中に車で居眠りをした後はアルコールが残らず、すっきりとした気分になれた。
 中国人は白酒にこだわりを持っている人が少なくないようだ。日本人が日本酒の銘柄にこだわることに似ているかもしれない。白酒は投機の対象にもなり、有名な銘柄は何十万円という価格に高騰している。日本のテレビでも、有名銘柄の偽物づくりが行われているという特集が放送されたことがあったが、その背景にあるのはこうした事情だ。
 しかし、雄安の社長たちは、「自分たちのお気に入りの酒は、投機など関係ない。美味しいから飲むのだ」と教えてくれる。「不思議と残らない酒だね。こんなに強い酒を飲んだら調子が悪くなると思っていた」と話すと、穏やかな笑みを浮かべながら「俺たちが客人のために選んだ酒だ。そんな悪い酒を出すはずはないだろう。それに、ここには日本人は滅多に来ない。国際交流、日中交流だ」と話し、「また必ず会おう」と固い握手を交わして別れを告げた。
(かわばたたかし・シンガポール在住)
2017年夏号掲載

月刊 酒文化2017年06月号掲載