トルコ、東西文明の交差点で楽しむ酒

 今回は昨秋2度訪れたトルコについて書いてみたい。トルコは美食の国だ。チーズやヨーグルトなどの乳製品、肉、野菜、パンと、何を食べても美味しい。アジアやアラブ風の料理とヨーロッパ風の料理のコンビネーションも楽しめる。そんな豊かな食文化を支え、食欲を一層かき立てるのが酒だ。トルコにはワインの名産地が点在する。世界遺産で有名なカッパドキアをはじめ、美しいリゾートで有名なアンタルヤなどだが、どれも比較的安価で試しやすく、飲みやすい。
 トルコはワインだけでなくビールについても語らないといけない。トルコのビールは30銘柄以上あるとも言われているが、トップシェアを占めているのは『エフェス』だ。1969年から製造が始まり、50年近く、トルコ人に愛されている。『エフェス』を生産しているアナドル・エフェス社は、トルコ、ロシア、カザフスタン、モルドバ、ウクライナ、ジョージアに計14のブルワリーを所有している。トルコだけでなく、カザフスタン、ジョージア、モルドバでもトップシェアの銘柄だ。なめらかな味わいは、屋台で売られている鯖フライのサンドウィッチやケパブ、蒸しコーンなど、ビールにぴったりだ。
 トルコの国民の大半はイスラム教徒だが、驚くほど豊かな酒文化を持っている。時間になれば街中にコーランが流れ、大勢の礼拝する人々の姿を目にするが、酒場は賑わい店にはビールやワインがたくさん並んでいる。トルコは文明の交差点や十字路とも呼ばれる。かつては神聖ローマ帝国の人々は、ヨーロッパからトルコに行けばイスタンブールをアラブだと言い、アラブからトルコに行けばヨーロッパだと言うことが多い。イスタンブールは、もともと、330年に東ローマ帝国の帝都コンスタンティノープルに定められ、キリスト教文化の中心地の一つとなった。その後、1453年にイスラム教徒のオスマン帝国がコンスタンティノープルを攻略し、新たな帝都としてイスタンブールに改名した。そのため、イスタンブールには、古くから残る宗教建築が街のあちこちにある。なかには、世界遺産区画にあるアヤソフィアのように、元々、キリスト教の教会だったものが、イスラムのモスクとなり、そして、現在では宗教色を排除した博物館という、数奇な運命をたどった建築物もある。ヨーロッパと中東の大帝国の首都が位置し、脈々と受け継がれてきた人々の生活の中で、豊かな酒と食の文化が育まれたのだろう。
 イスタンブールは東京からトルコ航空の直行便で飛べる。トルコ航空のサービスの質は高く、エコノミークラスでも様々な酒を提供する。次の旅行では歴史が織りなす美しい街並みやボスポラス海峡を眺めてグラスを傾けてみてはいかがだろうか。
(かわばたたかし・シンガポール在住) 
2018年春号掲載

月刊 酒文化2018年09月号掲載