台湾の酒といえば『台灣啤酒』

国を代表するお酒と言えば、フランスならワイン、ロシアはウォッカ、ドイツはビール、日本は日本酒と本格焼酎・泡盛などがある。台湾の代表的なお酒はなんですか? と時々聞かれるが、この質問に回答する前に、まず台湾の歴史を簡単に説明したい。
 台湾は石器時代からすでに人類の居住が開始されていた(台湾先住民といわれる)。この後、一時的にオランダやスペインが台湾島を領有し、アジアの貿易・海防の拠点となった。一八世紀に中国から多くの漢民族が台湾に移住し開発を進めたが、一九世紀末の日清戦争で清が敗北したため台湾は大日本帝国に割譲される。そして、第二次世界大戦後、日本は台湾の領有権を放棄し、中国から再びたくさんの人が移住してきて、今の台湾になっている。
 この流れで見ると、台湾では先住民、スペインやオランダなどヨーロッパ、中国、そして日本からの影響を受け、色々な文化がミックスされて酒や各文化に影を残していることになる。
 台湾先住民の酒としては小米酒(シャウ-ミイ-ジョウ、アワの醸造酒)がある。ヨーロッパ文化の酒はワイン。現在では台湾先住民は多くなく、小米酒を飲む人もあまり見ない。ワインを飲む人は多いが、台湾の風土はワイン用のぶどう栽培には向いていため、この二つは台湾を代表する酒とは言えないだろう。中国文化からの紹興酒と高粱酒(カオリャンジョウ、中国白酒の一種類)、そして日本文化からの清酒と焼酎は、台湾でもつくっているが、どちらも台湾らしい特徴はあまり感じない。
 紹興酒と高粱酒は数十年前には人気があったが、今飲んでいる人はわずかだ。紹興酒は飲むよりも料理酒としてよく使われている。最近の若い世代はたくさん酒を飲まないため、高粱酒のようなアルコール度数が高く、飲んだ時にアタックも強い酒に関心がない。
 また、台湾の焼酎は紹興酒と同じように料理酒としてよく使われている。特に冬には米焼酎をたっぷり入れた鴨鍋と羊鍋はとっても人気があるが、そのまま飲む人は多くない。清酒は日本産のほうが品質が高いので、清酒好きな人は安価な台湾産ではなく、日本産を飲むことが多い。
 最初の質問に戻るとこれらの酒は、どれも消費量も生産量も多くなく、台湾の代表的な酒とは言いにくい。台湾の特徴・生産量・消費量の三つを考えて、台湾を代表する酒をあげるなら、元は国営企業で酒類メーカーの最大手である臺灣菸酒公司が生産する「台灣啤酒(タイワンピージョウ)」となるだろう。『台灣啤酒』の原材料は麦のほかに、台湾米を使っている。それで一般のビールと比べ、ふくよかな甘みを感じられる。生産量はもちろん多く、シェアも台湾一位だ。コンビニでも台湾風の居酒屋―熱炒店でも必ず見つかる。
 台湾へ来たらぜひ台灣啤酒を試してみて欲しい。そして冬場だったら、米焼酎を入れた鍋もお忘れなく。
(KENNY YANG 台北市在住)
2019年特別号上巻掲載

月刊 酒文化2019年06月号掲載