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冬にふさしい紹興酒を飲む

 遅ればせながら明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
 中国の旧正月(春節)は親戚を訪ねるのが一般的で、家族意識が強い中国人はこの時期に年取りものを持ち、子供を連れて親戚を訪ねます。私の父は長男なので、旧正月には親戚たちが次々に我が家に集まってきます。そして夜は皆で会食になります。四代同堂の会食なのでもちろんお酒も準備します。
 昔は新年に屠蘇酒を飲み病気や災い除けをしましたが、今はほかのお酒を飲みます。中国は地域により天気、気温、飲食、風俗まで大きな差があるので、新年に飲むお酒も変わります。北京周辺は白酒(焼酎のような蒸留酒)を飲み、上海、浙江、江蘇地域は紹興酒を飲みます。紹興酒は日本酒と同じように温めて飲めるので、年齢と男女を問わず寒い新年ディナーに人気です。
 紹興酒は製法と味で4種類に分かれます。辛口の「元紅酒」、中辛口の「加飯酒」、中甘口の「善醸酒」、甘口の「香雪酒」です。
 「元紅酒」は高級な古酒に近いものです。古代中国では皇宮試験で一位を取った人に「状元」という称号を与え、その祝い酒の甕に赤い色を塗ることで「状元紅酒」、略して「元紅酒」としました。紹興酒の中でもっともドライで、低温で熟成した日本酒の古酒のように薄い黄色で、杏仁のような香り、スッキリしたアタック、ほんのり甘みのある後味で、冷やして白ワイングラスで飲むのが一番です。
 中辛口の「加飯酒」は通称「花彫酒」と呼ばれ、甕にきれいな花模様が彫刻されています。「元紅酒」より原料のもち米を多く使い甘く仕上げてあります。この酒には熟成タイプが多いので、色はキャラメル色から琥珀色、ナッツとハシバミのような香り、甘いキャラメルのようなコクのある含み香で、飲む季節により冷やしても温めても楽しめます。
 中甘口の「善醸酒」は日本酒の貴醸酒と同じです。醸造する時に水の代わりに熟成した「元紅酒」を入れて醸造するために「善醸」と言います。濃い黄色で粘度も高く甘い蜂蜜のような香りと味ですが、さっぱりした後味なので、女性や黄酒の初心者にも好まれます。
 甘口の「香雪酒」は特殊なもので、仕込み水の代わりに白酒を使う四種類の中でもっとも甘いタイプです。醪は雪のような白色で濃厚な味わい、ふんわり甘い入口で、後味にはナツメの砂糖漬け、甘納豆、キャラメルの香りがあります。とても甘いのでデザート酒か、料理で使う方が多いです。
 日本でかつて流行った台湾産の黄酒は中辛口の「加飯酒」、中甘口の「善醸酒」に近いものだと思います。ただし、残念ながら、それは本物の紹興酒ではありません。紹興酒と表示できるのは地理的表示(GI)により、浙江省の紹興市で鑒湖の水を使って醸造、貯蔵、瓶詰めされたものだけです。飲み方は燗はしますが氷や梅干し、砂糖などは絶対に加えません。
 紹興の酒蔵は熟成を重視して、倉庫いっぱいに甕を積み上げてクラフト黄酒を貯蔵しています。近年は試飲して品質がいいタンクを選び、それだけを瓶詰して販売するところもあります、そのような酒は1万円から10万円とたいへん高価で入手困難な限定品です。
 ただし、それは昔の酒づくりの職人たちの技の結晶です。多くのメーカーが長期間の貯蔵で資金が寝ることを嫌い、安価に手早くつくるために添加物を使っています。酒づくりの技術が継承されず、厳しい状況になるかもしれないと危惧しています。
(フォール・コウ・上海在住)
2021年春号掲載

月刊 酒文化2021年03月号掲載