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真夏の夜に清涼感を求めて〜ニューヨークでお勧めのバー

 日本ではビアガーデンだろうか、ニューヨークの夏はルーフトップバーが人気だ。どこかお洒落な店でフローズンダイキュリーでも注文してみようかと調べてみると、チェルシーにある「ギャロウグリーン」が面白そうだ。旧ホテル全体がエンターテイメント空間に改造され、観客は部屋を行き来しながら「スリープ・ノー・モア」というパフォーマンスを鑑賞する。この体感型劇場(?)にルーフトップバー「ギャロウグリーン」が併設されている。あふれんばかりの緑の樹木に覆われたガーデンバーだそうだ。そういえば今夏のセントラルパーク野外劇場での演目が「真夏の夜の夢」。夜空と樹木に囲まれカクテルを味わいながらシェークスピアの名作を楽しむのも悪くない。
 ところが「真夏の夜の夢」どころか「真夏の夜の現実」にぶち当たった。正面1階はエレベータに乗る前で入場制限。20分ほど待ってようやく薄暗がりの中、レトロ感たっぷりのエレベータに案内される。降りると今度はゴシック調の狭い通路を通り抜け、階段でルーフトップへ上がる。外へ出ると、人・人・人。確かに緑あふれるルーフトップだが、人もあふれている。カクテルどころか、ビール一つ注文するにもカウンターに近づけない。土曜日の6時ということもあるが、これほどまでの混みようとは。
 バーでは飲み物だけを注文してその一杯で談笑する人たちが多い。ガツガツ食べず、お酒だけを味わうスタイルだ。アメリカでは禁煙の風潮が根付いてきている。ホテルやオフィスビルも全館禁煙がほどんどだし、外で吸う人も見かけなくなった。ストレスが発散できる「酒とタバコ」のうち喫煙が制限される昨今、人々は「酒」に移行しているのだろうか。
 とにかくこの人混みでは清涼感を味わえない。ルーフットップは諦めよう。しかし外は暑い。何がなんでも夏らしいカクテルを一杯味わいたい。ハタと思いついたのが、昨年のフリーペーパー「TIME OUT」の表紙にもなっていたジョーズ風カクテル。イーストビレッジにある「マザー・オブ・パール」が提供する名物カクテルで、名前も「シャークアイ」。シャークヘッドを模った容器に満たされたカクテルと聞けば普通だが、口の周りには「血」に見立てたトッピング。写真でも見るとなんともグロテスクで別の意味で清涼感がある。いや清涼感というより背筋が凍る寒さか。
 地下鉄を乗り継いで、イーストビレッジへ。この界隈は若者に人気があり、グラフティーの目立つアットホームなお店が軒を並べる。アベニューAにある「マザー・オブ・パール」も大きくはないが、エレガントなカーテンやシャンデリアをあしらったお洒落なたたずまいだ。入口の円形テーブルに座り早速「シャークアイ」を注文。ほどなく雑誌で見た通りの「シャークヘッド」が運ばれ、ウエイトレスのお姉さんが満面の笑みを称えながら、ササッと赤いトッピングを振りかける。見る間に、サメの口が「血だらけ」に。さてそのお味は? バーボン、ライの刺激が少し強いがその苦味がフルーティーなテイストとミックスされ、甘ったるいカクテルとも違うのど越しさわやかな飲みやすさ。見ればあちこちでこの「シャークアイ」を注文している。やはり名物カクテルなのだろう。かくして真夏の夜のニューヨークで清涼感あふれる(?)カクテルを堪能することができた。
(あおきたかこ・ニューヨーク在住)
2017年秋号掲載

月刊 酒文化2017年09月号掲載