新しい茶の道はNYCにあり

 Made in Brooklyn、いわゆる「ブルックリン産」「ブルックリン発」がイケてるブランドの代名詞となって早数年。「飲み」のシーンでも、クラフトビール、ウイスキー、ジュース、手づくりジンジャエール、インフューズド・ウォーター(果物や野菜を漬け込みフレイバーを楽しむ冷水)など、群雄割拠の時代に突入している。そんな中、突如ニューヨーカーによってリファインされているのが「抹茶」だ。
 ニューヨーク生まれの兄弟マックス(二五)とグラハム(二三)がブルックリンに「MatchaBar(抹茶バー)」をオープンしたのは二〇一四年秋。まだ二年弱というのにすでに瓶詰品を販売、マンハッタンに二号店をオープン、ロサンゼルスや東京での期間限定ショップ出店と飛ぶ鳥を落とす勢い。
 二人の「抹茶愛」は熱狂的。学生時代からイベンターとしても寝る間も惜しんで働いていた二人が、コーヒーやエナジードリンク(栄養剤)のかわりに白羽の矢に立てたのが抹茶だった。心身ともに疲れきっていた二人に抹茶がもたらしたのは「清涼感」。「すぐに抹茶効果を感じた。体調の変化はもちろん、心が軽くなった」と話すのはグラハム。店のキャッチフレーズ「Uplift(アップリフト、持ち上げる、軽やかにするのニュアンス)」にも、心身を軽やかにしてくれる抹茶の効果を込めている。
 抹茶の健康効果を信じて疑わないのは自らの実体験があるから。店で扱う抹茶は愛知県西尾市の茶農家と独自契約を結び、新茶摘みの春には毎年現地を訪れる。キュウリやスイカ、アサイなどと抹茶をミックスした飲みやすいメニューを開発し抹茶の可能性を探る兄弟だが、本来の嗜み方も同時に知ってもらおうと、抹茶の点て方のパンフレットを制作し、茶道への敬意はらう。
 「茶を点てる」なんて、日本人だってなかなかしない。特別な趣味人のやることで、自分とは無縁という気分さえある。こうした垣根を飛び越え新境地を開くのはいつだって、純粋な好奇心で異文化に飛び込め、周りを気にしないソト側の人間だ。
 ニッポン勢だって負けてはいない。福岡にある茶バー「万」のオーナー、徳淵卓さんは昨年九月、マンハッタン・トライベッカ地区にあるバーBb(ビー・フラット)で、煎茶道の点前で八女産の玉露やほうじ茶を振る舞った。一煎・二煎・三煎と温度を変えて茶葉を蒸らす技にかかると、旨味や苦み、甘味、そして香りまでが文字通り「味の万華鏡」で、煎茶の奥の深さに感嘆する。
 「伝統は革新の連続」というが、その通りだと思う。千利休は、茶をもてなす主人と客がお互いを尊敬しあい、おごらない気持ちで接し合う「和敬清寂」を根幹に茶の道を大成させた。彼もマックスとグラハムがニューヨークで進化させた抹茶、徳淵さんの一期一会の精神でもてなす煎茶道を祝福しているに違いない。
(いたやけい・ニューヨーク在住)
2016年特別号上掲載

月刊 酒文化2016年06月号掲載