人気の「バーテンダー」は知力・体力勝負!?

イリッシュパブ、スポーツバー、ルーフトップバーにダンスクラブと、ニューヨークでの酒シーンを数え上げたらきりがない。ゆえにバーテンダーの需要も多いわけで、そのテクニックを学ぶ「バーテンディングスクール」はニューヨーカーにも大人気。一、二週間かけて、あるいは週末コースで計四〇時間の授業に参加する。最後の筆記と六分以内に二〇のカクテルを作る実技試験に合格すれば、晴れてバーテンダーの資格をゲットできるのだ。資格がないとバーテンダーになれないわけではないが、パブやバーでの仕事に就きたい人にとって、就職の斡旋もあるスクールは一石二鳥なのである。
 ある時ふと、このバーテンダーのトライアルコースに参加してみようと思い立った。ニューヨークに住んで早一五年。何か手に職をつけてみたい。お酒に詳しくないが、カクテルはたしなむ。しかし中年と言えるこの歳で始めて大丈夫なものか。
 サイトを調べると、Q&Aの中で「五〇を過ぎても、バーテンダーになるには遅いことはありません。誰でもチャレンジできます」と励ましの言葉が書いてあるではないか。
 かくして足を向けた先は「ニューヨークバーテンディングスクール」。ミッドタウン西の小規模ビルの中にある。広くないが、模擬カウンターもあり、後ろの「ひな壇」に所狭しと並んでいるボトルにノリノリのヒップホップを聞けば、不思議と気分も高揚してくるものだ。参加者は、アジアン、アフリカン、カリビアン、白人と人種も様々。
 ほどなくヘッドマイクをつけたインストラクターが登場。パワーポイントを使って内容を映し出しながら、生徒をバーに立たせ、「バーテンダー」を体感させる。かなりの速いスピードでラム、ジン、ウォッカ、ウィスキーとボトルの説明をしていく。サントリーの「MIDORI」や「ヘネシー」、「カルア」などなじみのボトルもあるが、酒通でなければ一気には覚えられない。ホースには、「トニック」「コーク」「ウォーター」などのプッシュボタンがついている。
 さて、グラスの種類、器具の説明を聞いた後、模擬カクテルを次々と作らされる。速い。ボトルの場所がわからない。つくり方は、シェーカー? ステア? 見様見真似でボトルの先端を両手で押さえ注ぎ込むのだが、ボトルが重い! 腕の筋肉が必要だ。画面に映し出されるカクテルの名前。「テキーラサンライズ」、「セックスオンザビーチ」はウォッカ割りでオレンジにクランベリー。えーっとボトルは? グラスはどれ? カクテルグラス? ハイボールグラス? まごまごしているうちに次々進む。
 戸惑いのうちにトライアル終了。五〇から初めても遅いことはないというが、これは知力、体力がないと無理かもしれない。よく見れば参加者は皆二〇、三〇代のようだ。
 初めてながらも、慣れた手つきでシェーカーをふって「そうそう、うまいね」と褒められている人や終了後、さっそく申し込みをする人も。
 私は一旦退散した。トム・クルーズの映画「カクテル」のごとく、バーでカッコよくカクテルを作る自分を想像してみても現実は厳しい。資格コースにチャレンジするかどうか数日経った今でも思案中である。
(あおきたかこ・ニューヨーク在住)
2016年特別号下掲載

月刊 酒文化2016年10月号掲載