フレンチカリブのラム酒はいかが

 ニューヨークからカリブ海までは3〜5時間のフライト。プエルトリコやカンクン、バハマ、ジャマイカ、USバージン諸島などは、お手軽に行ける米国人の人気リゾート地である。一方、マルチニークやグアドループといった小アンティル諸島に属するフレンチカリブの島々は、現在、米系航空会社の直行便がない。米国本土からアクセスするには乗り換える必要があり、運賃も800ドル以上と高い。長年、クレオール文化とフランス本土のテイストを味わえるグアドループ島に行きたいと思っていたが、上記の理由から断念していた。
 ところが、昨年から格安の航空会社「ノルウェジアン」が、ニューヨークのJFK空港とマルチニークのフォール・ド・フランス、グアドループのポワンタピートルを結ぶ2路線を就航した。しかも往復300ドル前後と運賃も安い。これは行くしかない!ということで、11月のサンクスギビングホリデイを利用しフレンチカリブへ旅立った。
 ところでカリブといえば、サトウキビ栽培。そしてサトウキビからつくられるラム酒が有名だ。どの島に行ってもラム酒やラムのチョコ、ラムのケーキが土産物の定番となっている。コロンブスの新大陸発見から始まる大航海時代、カリブの島々にはサトウキビがもたらされ砂糖の生産が始まった。それに伴い各島でオリジナルのラム酒がつくられるようになる。フレンチカリブもラム酒の製造が盛んだ。他の島と違うのは一般的なラムが、サトウキビから砂糖を作り出すときの副産物、廃糖蜜(モラセス)でつくられるインダストリアル製法であるのに対し、フレンチカリブでは、サトウキビの絞り汁からつくられるアグリコール製法を用いていること。廃糖蜜は貯蔵しておけばいつでもラム酒の製造可能だが、サトウキビから直接絞り取りそのまま発酵、蒸溜させるアグリコール製法では、収穫の時期でしか製造できない。それだけにサトウキビの本来の甘さ、香りが堪能できる独特のラム酒が出来上がる。
 ポピュラーなラム酒はラ・マニーやラム酒JMだが、免税店を覗くと実にさまざまなラム酒が販売されている。例えばマルチニーク産ではカンヌ・ブルーや香り高いホワイトラムのファランドール・ディロン。グアドループ産ではラム・ボローニュ、ブラック・ケインやドゥメン・ド・セヴェリンVSOP。
 その他、グアドループからフェリーで行けるマリー・ガラントもラム酒づくりで有名な島だ。人口が1万2千人程度なのに蒸溜所は3か所もある。昔の動力源であった風車が数多く残されていることから「100の風車の島」とも呼ばれる。グアドループのポワンタピートルの空港免税店にはこのマリー・ガラント産を示すラベルのついたラム酒も多い。
 またラム酒だけでなくフルーツパンチやカカオのリキュール、プラントゥールと呼ばれるラム酒にフルーツジュースをミックスしたお酒などあらゆる商品が棚に陳列されている。ボトルの色やデザインもフランス海外県ならではのアート感覚溢れるものもあり、見ているだけで楽しくなる。価格も10ユーロ程度からと、それほど高い買い物ではない。
 ラム酒、そしてサトウキビプランテーションは、カリブの歴史、民族、その変遷に深くかかわるものである。今回の滞在中、残念ながら蒸溜所見学に行くチャンスがなく、お酒としてはマルチニーク産ビールを味わった程度で終わってしまった。ニューヨークからの直行便があるうちにもう一度足を運びたい。そして様々なラム酒をテイスティングしながら、リゾート地としての顔だけでなく、カリブ海のそれぞれの島が持つ、奥深い歴史の一端に触れてみたいと思っている。
(あおきたかこ・ニューヨーク在住)
2017年春号掲載

月刊 酒文化2017年05月号掲載