ニューヨークのSAKE&SHOUCHU売場

 ここ数年、ニューヨークで起業する日本人女性の話題が目につく。起業のジャンルは様々だが、中でも地酒を広めようと輸入業をスタートしたSake Suki社長の宗京裕美子さんや、ミッドタウンに焼酎バー&レストラン「焼酎&タパス‐彩」をオープンさせた大竹彩子さんの話は感慨深い。
 数十年も昔の学生時代、横浜の居酒屋で一年間バイトしたことがあった。酒は生ビールのジョッキから、熱かん、チューハイなんでもあり。気が付いたことだが、女性客はビール、フィズなどを好んでも、地酒やそば・芋焼酎などのオーダーはほとんどなかった。それで私には「日本酒=男の酒」というイメージが出来上がっていた。時代は変わったものだ。今では女性が率先して日本酒の宣伝に一役買っているのだ。
 はたしてニューヨークでも日本酒を好む人が増えてきているのだろうか。と気になった。「ニューヨークで日本酒が流行っているって話、聞いたことがある?」知人のアメリカ人に聞いてみた。「知らないなぁ」とすげない一言。「じゃあどんなお酒が流行っているのかしら。」「ケンタッキーバーボンとかだろう」。あまりお酒を飲まない人に聞くのではなかった。
 街に繰り出してリカーストア=酒屋を探索したほうが早い。まずは職場近くのグランドセントラル駅構内にあるリカーストアに立ち寄ってみた。店内はそれほど広くはないが、ワインセレクションの横にしっかり「SAKE」コーナーはあった。なるほど、日本酒のジャンルはそのまま日本語で「SAKE」と呼ばれるのだ。種類は、「さゆり」「出羽鶴」「NIGORI」など一般的な商品が多い。それでもこの規模のお店に「SAKE」コーナーがあるとは。日本酒がいかにアメリカに浸透しているかを垣間見ることができる。休日はチェルシーマーケット内のワインストアへ。イタリア、フランスはもとよりアルゼンチンやチリ、南アフリカ産など膨大なワインセレクションがお店の七割くらいを占めている。そんな中でも「SAKE」コーナーはあった。ところで日本の酒は「SAKE」だけではない。アサヒやサッポロなどビールもそうだし、最近は「山崎」「白州」「響」などウィスキーの品ぞろえも豊富だ。
 一方「SAKE」コーナーはあちこちにあっても、「焼酎」の類が見つからない。二三丁目のチェルシー地区にある「ワイン&スピリッツ」にも焼酎らしきものがない。店員に聞いてみると「ショーチュー? 何、それ? サケコーナーはあそこにあるだけよ」。店員もお酒に精通しているとは言い難い。確かチェルシーに焼酎が充実したリカ―ストアがあったはずなのだが……。あったあった。二三丁目をもう少し西にいった「ランドマーク・ワイン&スピリッツ」がそれ。奥に聞きしに勝る焼酎コレクション。なん十種類と数えきれないほどの焼酎が並ぶ。店員にどれくらいあるのか聞いたが、「A LOT(たくさん)」とあやふやにしか答えてくれなかった。これだけの品数の焼酎の味や違いを店員が説明するのは無理がある。だからこそ、最近日本人が中心となって焼酎のテイスティングイベントが開かれているのだろう。
(あおきたかこ・ニューヨーク在住)
2017年特別号上掲載

月刊 酒文化2017年05月号掲載