ラム工場「バカルディ」を訪ねて

 マイナス11℃と底冷えするニューヨークを脱し、南国のプエルトリコまで行って来た。プエルトリコに行くというと、同僚は口をそろえて「ハリケーンの影響は大丈夫なの?」と心配する。大型ハリケーン「マリア」はカリブの島々に多大な被害をもたらした。当初それほど気にしていなかったのに予約したホテルから「電気もなく水もないので営業できません。クローズします」とのお知らせが。あわてて別のホテルを予約、少しばかり不安になる。
 だがプエルトリコに到着すると不安も消し飛んだ。ビジターセンターの担当者は、ほかの地区はともかく、サンファンは回復している。クルーズ船も運行を再開したとのこと。プエルトリコに来た目的の一つは、ラム酒で圧倒的な人気を誇る「バカルディ」の工場見学、1月1日は休みだが大晦日は開いているとのことで、急遽、オールドサンファン出港のフェリーに乗船した。
 到着したカターニョの港からバカルディまでは乗合タクシーで10分ほど。フェリーは50セントだが、タクシーは10ドル。まあ、私一人しかいないのでしょうがない。
 バカルディの本社はどこかの大邸宅のようだ。守衛もいるし、門が閉まっている。近づくとゆっくり門が開き、「ツアーなら、まっすぐ行ってあそこで申し込んで」と遠くのパビリオン型のセンターを指さす。ツアーは3つのなかから選ぶ。歴史探索、テイスティング、ミクソロジーだ。カクテルづくりに興味をひかれたがここはやっぱりテイスティングといこう。参加費用は$49.99。ウェルカムカクテル一杯(グラスはお土産に持ち帰れる)、ガイドによるツアー、5種類のラムのテイスティングがついてくる。パビリオンで待つ間、絶景を堪能する。自然に配慮した風力タービンの白さが海と空の青さに映える。遠くに目をやると観光客が一度は訪れるサン・クリストバル要塞が海に突き出ている。ここでカクテルを味わいながらくつろぐだけでも、プエルトリコまで来たかいがあるというものだ。
 ツアー参加者は私ともう一人の女性だけだった。敷地をカートでぐるっと回りながらガイドの説明を受ける。工場内部の製造工程は見ることができないが、蒸留施設の規模を目の当たりにして、ここで世界一の出荷量誇るバカルディがつくられているという実感が沸いてきた。
 1862年スペインの酒商人、ドン・ファクンド・バカルディによって、キューバに設立されたバカルディ―社。紆余曲折あってプエルトリコに蒸留所を設け、近年世界一のブランドとなるまでの歴史をガイドは写真や器具を示しながら丁寧に説明してくれる。また、熟成期間が異なるラムの香りを比べるコーナーもある。最後はダイニング様式の部屋で5つのラムを味わう。“RESERVA LIMITADA”“ RUM CASA BACARDI”人気の8年熟成“ RON 8 ANOS”など。私には微妙な違いを今ひとつ判別できなかったが、どれも豊かな風味で、ウィスキーのような渋みも感じられた。最後にはテイストの違いを学んだ修了書まで発行してくれるおまけつき。
 今度はぜひミクソロジーコースに参加して、モヒートやピナコラーダ、ダイキリなどの作り方を体験してみたい、と早くも2回目のプエルトリコ行きを画策中である。
(あおきたかこ・ニューヨーク在住) 
2018年春号掲載

月刊 酒文化2018年09月号掲載