スタンディング好きなニューヨーカー

 先日、ようやく初夏を思わせる季節になったニューヨークで、ルーフトップラウンジでのパーティーに招待された。ルーフトップとはいわゆるビルディングの屋上で、日本のビアガーデンのようなものだ。
 毎回感じるのだが、ニューヨーカーは飲んで食べておしゃべりするような「飲み会」はあまりしない。レストランのディナーで注文するお酒や、アイリッシュパブでの飲んで食べるというのもあるが、仕事帰りに仲間と一緒に一杯というと、食べることはほとんどせず飲みとおしゃべりに徹するのだ。だから日本の「居酒屋」=飲んで食べて談笑してという三拍子の感覚がわからないかもしれない。
 今回のパーティー会場となったルーフトップラウンジは、ミッドタウンにあるルーズベルトホテル19階の「mad46」。くつろぎ用のカウチにカウンタースツール、テーブルにチェアも兼ね添えたリゾート感あふれる広々としたスペースが自慢だ。グランドセントラル駅に隣接したメトライフビルディングが目前に押し迫る摩天楼の眺望も申し分ない。
 バーカウンターの豊富なメニューもさることながら、この日は寿司にシュリンプカクテル、メキシカンタコス、ステーキに魚料理、スティック野菜、ミニハンバーグにスライスピザ、スイーツと豪華なバフェコーナーもあった。にもかかわらず、ニューヨーカーはたしなむ程度に食するのみで、飲みとおしゃべりに徹している。パーティーは夜6時半から。ディナータイムであるはずなのに、魚やステーキの切り身を分けるシェフや寿司職人の前にはあまり列ができていない。
 もうひとつ気がついたのはが、ビールを飲んでいる人があまりいないこと。モヒートや、マルガリータなどのカクテルやワイン、シャンパン派が大半だ。確かにクラフトビールが流行っているし、スポーツバーやアイリッシュバーではビールの注文が盛んだがここルーフトップでは、お酒の注文も違うようだ。同じ「屋上」で飲むお酒でも「清涼感を求めてジョッキ一杯の生ビールを飲み干す」という日本人の感覚とは違うのだろう。 
 そして、カウチが並んでいるというのに、そのそばで立って飲みながら談笑する人たちの多いこと。特に男性。仲間内で飲んでおしゃべりを楽しむには、席など座っていらないようだ。
 話はそれるが最近、私の常駐しているクライアントのオフィスがリベーション後、モダンな造りに一新された。中でも個人の机がボタン1つで上下に動くシステムは圧巻だ。つまり立ったまま仕事をすることも可能なのだ。それでは疲れるだけ、と思いきや見渡せばあちこちで立って仕事をしている人たちがいる。立つことで軽減される疲れもあるのだろう。立ったままワイングラス片手に長々とおしゃべりを続けられるのはそのせいだろうか。
 私もニューヨークに住んで17年。れっきとしたニューヨーカーであるはずなのだが、日本の「2時間飲み放題、食べ放題」の居酒屋が性に合っているようだ。ひと月ほど前に帰省した時、大学時代の仲間と座って食べて飲んだひと時で再確認した。
(あおきたかこ・ニューヨーク在住)
2018年夏号掲載

月刊 酒文化2018年10月号掲載