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日本と海外の酒めぐり
韓国「飲酒作法」紀行
韓国の飲酒作法  
おわりに
 現在の韓国社会において、郷飲酒礼が一部の儒林を除いて一般の人々にどれほど知られているかは疑問であるが、飲酒に際しては礼法を守らねばならないといった強い意識が残され、実際の行動として儒教的な礼法が守られているのは事実である。では、韓国社会でなぜかくも儒教的な礼法がいまだに遵守されているのだろうか。
 その一つは、韓国社会では儒教の教えが社会制度化されていることがあげられよう。日本でも「親孝行」や「長幼有序」といった儒教の教えにもとづく言葉はあるが、それが祖先祭祀をはじめとする社会制度にまで結びつかなかった。韓国では、親孝行の教えは、生前の親に対してだけでなく、死後の親に対してもなされるべきである。これを具現化したのが祖先祭祀である。この祖先祭祀が、四世代の間、各祖先の命日と、元旦や秋夕(陰暦八月一五日)などに家で、五世代以前の前の祖先たちに対しては、毎年一定の日に墓で執り行われる。時ごとに、酒の礼も子々孫々に教えられてきたのである。
 もう一つは、行動様式のコード化があろう前述したように、韓国では、酒を注ぐ時、注がれる時には、片手ではなく、両手をそえなければならない。また、人にものをわたす時受け取る時にも、片手ではなく両手をそえるのが礼儀である。韓国で買い物をすると、レジの女の子が横を向いて友だちと話ながらも必ず両手で品物を渡す姿を見かける。心はともかく、客に対する礼儀としての行動様式はしっかりと身についているのだと感心してしまう。
 私自身、日本人同士でお酒を注ぐ時、注がれる時も、自分の左手が必ず右手にそえられているのに気づいて、苦笑いすることがあるすっかり韓国的なマナーになっているからである。こういう場合には、こういう行動様式をとるというコードが確立していることはどのように行動したらよいか悩むより、よほど楽である。こうすれば敬意を表す行為なのだと分かっていれば、そのとおりにすればよいだけである。ともあれ、酒の席はお互い敬意をもてる人同士で飲むのがなによりと思うのである。

◆参考文献
朝倉敏夫 1998年「韓国の飲酒文化についての覚え書き」石毛直道編『論集酒と飲酒の文化』 頁403〜425・平凡社
嶋陸奥彦 1985年『韓国農村事情』PHP研究所
鈴木栄太郎 1973年「郷飲酒礼」『鈴木栄太郎著作集』V 頁212〜222未来社
徐 燉永 1986年「韓国の飲酒礼法に関する考察」『韓国食文化学会誌』一(二)頁171〜176
崔 吉城 1976年「韓国社会における酒」『親和』 269・頁18〜23
崔 在錫 1977年『韓国人の社会的性格』学生社
鄭 大聲 1992年「朝鮮の酒文化」『月刊しにか』 3(12)・頁36〜41・大修館書店
平木 實 1999年「朝鮮時代の郷村における儒教的教化の一側面」
『天理大学学報』190・頁1〜25
文化財研究所芸能民俗研究室 1987年『韓国民俗綜合調査報告書(礼節篇)』文化公報部文化財管理局

【プロフィール】
朝倉敏夫(あさくら・としお)
1950年、東京生まれ。
主な編著書に、『食は韓国にあり』(弘文堂)、『日本の焼肉 韓国の刺身』(農文協)、『変貌する韓国社会』(第一書房)などがある。

月刊酒文化(1999年10月号)

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